攻める総務

「紙の断捨離」わずか3年で半減の成果 エプソン子会社に聞くその秘訣(3/3 ページ)

» 2024年01月22日 07時00分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]
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 印刷機器を扱う同社がペーパーレスに取り組むことについては、一部で反発もあったという。一方で福田氏は「機器を買ってもらえれば良い、たくさん使ってもらえれば良い、ではいけない」と指摘する。DXの進展で従来の事業に逆風が吹いているからこそ、新たに生まれているニーズに寄り添うことで新時代にあるべき付加価値を見つける狙いがあった。

 オフィス複合機は消費電力もそれなりにあり、紙は製造や輸送で大量の二酸化炭素を必要とする。そのためペーパーレスはDXだけでなく、企業の環境問題対策という側面もある。エプソンでは、これまでオフィス向けの複合機として主流だったレーザープリンタから、より省エネなインクジェットプリンタへの切り替えも進めている。それぞれの取り組みが相乗効果を生み出し、新たに環境問題に対する支援の引き合いも生まれつつあるという。

 「環境のために取り組むべきテーマはたくさんありますが、どこから手を付けるべきかはなかなか分からないものです。オフィスにある複合機という身近なものから環境問題に取り組めることは意外と知られておらず、チャンスだと考えています」

本当に必要なのは「推進」の工夫

 これからペーパーレスを始めようとする企業や、取り組んではいるがなかなかうまくいかない企業に対して、福田氏はどのように考えているのか。ポイントを次のように話す。

 「今は数多くのソリューションがありますし、電子帳簿保存法などの法対応でシステムを変えた例も数多く目にします。ただ、重要なのは機器やシステムの導入ではなく『どう推進していくか』ではないでしょうか」

 福田氏の言葉の通り、エプソン販売のペーパーレスを推進したのも目新しいツールではなく、地道な仕組み作りだった。ただ、仕組みを作っただけではなかなか人間は動けないものだ。例えばエプソン販売では、紙にフォーカスした取り組みだけでなく、東京商工会議所が主催する資格「環境社会検定試験(eco検定)」を通じた社員教育を実施。紙削減はあくまで手段であることから、本質的なテーマである環境問題に目を向けてマインドを変えてもらうための取り組みとして導入したという。結果、23年4月時点で1785人の社員のうち合格者は861人とほぼ半分にまで到達した。

 ペーパーレスを進める場合、企業規模によっても注目すべきポイントが異なる。大企業について福田氏は、部門や人数が多いことから「いかに横ぐしを通したプロジェクトにするか」が重要だと話す。多くの企業では総務などのバックオフィスが主管となりがちだが、多くの部門を巻き込んで「たすきがけ」で取り組みを進めるべきだとも指摘する。

 中小企業に対しては、規模が大きい企業と比較して紙帳票がそこまで多くないことから「進めようと思えば、進めやすい環境にあるはず」と福田氏。トップがペーパーレスの先に業務改革や働きやすさの追求といった明確なゴールをいかに示して社員を動機付けられるかがポイントとした。

 24年から電子取引情報のデータ保存が義務化され、ペーパーレス化の好機といえる。福田氏の話にもあった通り、ペーパーレス化は単純に紙の量を削減するだけではない、さまざまな副次効果を得られるものだ。DXの土台となる取り組みでもあり、対応が急がれる。

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