実現すれば世界初? 特急車両に水素エンジンを載せる? JR東海と組んだベンチャーに聞く杉山淳一の「週刊鉄道経済」(9/9 ページ)

» 2024年02月16日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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水素機関車が現実的かも?

杉山: そうなると課題は航続距離ですね。JR東海さんの要求は長距離特急車両ですから。

小松: 途中に水素供給施設をつくるとなると大変なので、やっぱり車両の構造で伸ばしたいですね。

杉山: できることなら車両基地は1つで済ませたい。

小松: そうです。車両基地から出発して往復させたいです。

杉山: そうなると、いっそ燃料を満載した車両を1台つくる方が現実的な気がしました。いまの旅客用車両のスペースをやりくりして、上につけるとか下につけるとかよりは、水素タンク車両を作った方が速そうですね。各車両にタンクがあったら、それぞれに充填する作業も大変でしょうし。昔の蒸気機関車の炭水車のように、1両まるごと燃料車を連結するという方法もアリかもしれない。もうディーゼルカーにこだわらないで、水素機関車と燃料車と客車でも良いかもしれません。機関車時代が来ちゃいますね。それはそれで楽しい空想です。

小松: そうそう。水素ボンベを搭載した車両が1台ある。

杉山: 水素機関車が1台あって、客車は別にあって。客車は動力がない分コストが低いですものね。そして燃料車を充填済みに交換すればすぐに折り返せる。

小松: 問題が生じるとすれば、プラットホームを1両分長くしなければいけない。もしくは、プラットホームのないところで運転手もしくは車掌が降りたり乗ったり。

杉山: ローカル線の場合は国鉄時代の名残でプラットホームが長いので、そこは問題ないかと。それから、昔は機関車を前後に付け替えましたが、いまは客車側で制御できるのでそのまま折り返せます。大井川鐵道井川線の例もありますし、奥出雲おろち号もそうでした。海外にも事例が多いです。

小松: 蒸気機関車も水素で動かせば煙(水蒸気)が出ますよ。

杉山: ホンモノの蒸気機関車も、車輪の側から出る煙は水蒸気ですしね。

小松: 機関車は夢がありますね(笑)。

杉山: 煙は演出でどうにでもなりそうですしね。

小松: 蒸気機関車の車輪を回しているのはロッド(横棒)ですよね。

杉山: そうです。蒸気の噴出を切り替えて往復運動に変換しています。

小松: 水素蒸気機関車の場合は、モーターで車輪を動かしてロッドを動かす。

杉山: 演出としてはそうですね。たぶん、銀河鉄道999もそうかも(笑)。私は客車の方が好きなんです。停車時の静かな雰囲気とか。

小松: すごくやりたくなってきました(笑)。

杉山: おっと、JR東海さんの要望とは違う方向になってきました。困りましたね(笑)。

水素タンクの収容場所が課題(筆者撮影)

 JR東海の特急形気動車に水素エンジンを載せる話が、水素機関車の可能性まで広がってしまった。まとめると、現在はハイブリッド特急車両の発電機を水素エンジン化する研究開発は進行中で、まずはこれを成功させてほしい。

 次に、トラックと同様に既存のディーゼルカーのエンジンの水素化に期待したい。例えば関東鉄道は複線非電化でディーゼルカーを運用している。茨城県石岡市の地磁気観測所に影響するということで直流電化できなかった。交流電化しようにもコストが膨大だ。既存のディーゼルカーが水素化できれば、鉄道の脱炭素はローカル線にも広まる。

 水素機関車は冗談のように見えて、実はかなり有用だと思っている。海外では機関車の列車が活躍しており、動力車を列車の前後に配置する「動力集中型」の列車も多い。こうした列車が走る路線では、水素機関車が適している。

 ともあれ、燃料電池だけではなく、水素エンジンに対しても、鉄道の脱炭素の可能性を感じた。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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