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「投資家が求める開示」は変化 “期待の集まる人的資本開示”2つのポイント投資家ウケする人的資本開示 (1/2 ページ)

» 2024年02月13日 07時00分 公開
[白藤大仁ITmedia]

 2023年3月期決算より、有価証券報告書における人的資本の情報開示が義務化されたことで、人的資本開示に注目が集まっている。内閣官房が策定した人的資本可視化指針など、ガイドラインが整備されつつあるが「とりあえず、型通りに開示しておこう」という姿勢では投資家からの期待は得られない。

 投資家に本当に響く人的資本開示をするためには、2つのポイントを押さえる必要がある。

機関投資家の意識は変化 求められる開示とは?

 日経225銘柄構成企業が公表している統合報告書を対象に、人的資本情報の開示状況を調べた当社リンクアンドモチベーションの調査では、人的資本について言及している企業の割合は、21年には60.8%だったが、22年には80.5%まで増加している。

 プライム市場に上場しているような超大手企業だけでなく、統合報告書を出していないグロース企業も、ヒューマンキャピタルレポートやサステナビリティレポートなどで人的資本に触れている例は多く、決算説明会の場で人的資本に言及する企業も増えている。

 背景にあるのは、人的資本に対する投資家の関心の高まりだ。最近は投資家から企業に対し、人的資本に関する質問が投げかけられることも多く、非開示の企業は不安視されるような風潮もある。こうした外的なプレッシャーから開示が進んでいる側面はあるだろう。

 また、人的資本を定量化しやすくなっていることも大きい。近年、第三次産業の発展などを背景に、価値創出の主体として「人」の重要性が叫ばれるようになっているが、人的資本が大事だという考え方ははるか昔から存在している。従来、人的資本の可視化は難しかったが、昨今はエンゲージメントをはじめ、人的資本を定量化できるようになりつつある。そのため、各企業がさまざまなチャネルで人的資本を開示するようになっている。

投資家が重視するのは「人的資本がどれだけの価値を生んだか」

 多くの投資家は、人的資本の開示が進んでいることをポジティブに受け止めている。当社が実施した「機関投資家の人的資本開示に関する意識調査」では「機関投資家が企業に求める人的資本開示項目」として以下のような結果が出た。

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 22年は「ダイバーシティ」に次いで「コスト」の開示への期待が大きかったが、23年は「コスト」に対する期待度が相対的に低下している。一方で「生産性」の開示に対する期待度は変わらず43%と高い水準にある。

 このデータは「人的資本にどれだけコストをかけているか」よりも「人的資本がどれだけ価値を生んでいるか」という結果を重視している投資家が多いことを示唆している。

 とはいえ投資家のスタンスはさまざまで、短期的な投機を主軸とする投資家もいれば、長期的な企業価値を見定めて大きなリターンの獲得を目指す投資家もいる。一つ言えるのは、さまざまな人的資本が可視化され、人的資本と「稼ぐ力」の相関を示すエビデンスも出始めている現在、投資家にとって人的資本は無視できないということだ。特に、長期投資家は、投資判断の材料として人的資本を重要視するようになっている。

明らかになりつつある「人的資本と投資指標の正の相関」

 人的資本と「稼ぐ力」の相関を示すエビデンスの例として、ここ数年で開示する企業が増えている「従業員エンゲージメント」と投資指標との関係性を示す調査結果を紹介しよう。

 当社の研究機関であるモチベーションエンジニアリング研究所が行った「従業員エンゲージメントと投資指標の関係性」に関する調査では、従業員エンゲージメントの指標である「エンゲージメントスコア」が高い企業ほど「ROE」「ROIC」(※1)が高いことが示唆された。

(※1)ROE:自己資本からどの程度効率的に利益を生めたかの指標/ROIC:投下資本からどの程度効率的に利益を生めたかの指標

 ROEは、純資産をコントロールすることで数字を操作できるため、従業員エンゲージメントの影響範囲は狭小ではないかという意見もある。その意味では、数字の操作が難しいROICにおいて正の相関が見られたのは非常に興味深いことであり、従業員エンゲージメントがトップライン (売上高)や販売管理費に影響を及ぼす一因となっている可能性が高い。同様の資本を投下したとしても、従業員エンゲージメントが高い企業ほど、その資本をより効果的に活用でき、収益につなげやすくなるということだ。

 また、エンゲージメントスコアとPBR(※2)にも正の相関が見られ、エンゲージメントスコアが高い企業ほどPBRが高いことが示唆された。

(※2)PBR:株価が企業の資産価値に対して割高か割安かを判断するための指標

 PBRは株価が直接的に作用するため、経済動向など外部環境の影響を受けやすいのは事実である。しかし、このデータは「エンゲージメントの高い企業は、資本市場から非財務資本に対する期待を得ることができている」という解釈を後押しするものになるだろう。

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