臨海部と東京駅を“ボーン”とつなぐ「新地下鉄」 なぜ運営が「りんかい線」事業者に?宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(3/4 ページ)

» 2024年02月15日 08時00分 公開
[宮武和多哉ITmedia]

今後予想される2つの課題

 東京臨海高速鉄道が臨海地下鉄を引き受けて直通・一体運営を行うにあたって、予想される事項や、生じる課題を挙げてみよう。

予想:遠のくJRの「りんかい線」買収&京葉線直通

 まず気になるのは「りんかい線・京葉線直通計画との兼ね合い」だ。計画実現への早道となる「JR東日本による東京臨海高速鉄道の買収」のハードルが上がるかもしれない。

京葉線・りんかい線乗り入れに関するシミュレーション(平成27年・千葉県資料より)

 京葉線・りんかい線が接続する新木場駅は既にレールがつながっており、羽田空港アクセス線計画3ルートのうち、千葉県内から羽田空港に直通する「臨海部ルート」にも指定されている。過去に千葉県が行った分析では、京葉線からの直通が実現すれば、1時間3〜6本の列車が「りんかい線」に乗り入れるという。

 実現への妨げになっていた要因は、主に以下の3点だ。

(1)「りんかい線」が大崎駅〜新木場駅間を短絡していることにより、JRの運賃体系に組み込むと安くせざるを得ない「運賃計算問題」

(2)割高な運賃の原因でもある「建設費用の返済問題」

(3)輸送力が限界に達した区間に乗り入れるための「京葉線の複々線化問題」

 もし、千葉県が望むような「都心部・羽田空港への乗り入れ」を実現するのであれば、まずは京葉線の一部(計画では〜海浜幕張駅間)の複々線化が必要となる。かつ、千葉県のシミュレーションにあるように「りんかい線をJR線並みの運賃体系に」するには、買収によってJR東日本の路線となるのが、一番手っ取り早い。

京葉線に乗り入れる通勤快速。蘇我駅にて

 東京臨海高速鉄道は借入金残高・社債などの有利子負債を約1100億円まで圧縮し、年間100億円弱ペースで返済を進めている。JR東日本が買収を行う上での障壁となる「建設費用の返済問題」の解決が見えており、一時期は舛添要一・東京都知事(当時)も売却に含みを持たせていた。この完済を待って買収・JRの路線となり、直通運転が実現するとみていた意見も多いのではないか。

朝晩の京葉線・新木場駅は「りんかい線」「東京メトロ有楽町線」への乗り換え客で大変に混みあう

 ただ、現在は計画の前提条件となるはずの「京葉線の複々線化問題」が、約1100億円の事業費がかかることから棚上げになったままだ。千葉県議会の議事録を見る限り、「取得した用地を県の企業局(旧・企業庁)が一部売却してしまった」(平成30年6月常任委員会、平成28年6月定例会など)ようで、今からの複々線化実現は難しそうだ。

 京葉線・りんかい線直通推進へのコンセンサス(合意)が県庁の部署間でもとれていない状況は「将来的に京葉線と一緒になる(直通する)はずだったりんかい線が、身内(千葉県)でグダグダしているうちに、東京の臨海地下鉄に持っていかれた」ようにも見える。この状態で、JR東日本が「りんかい線」を買収してまで、千葉県のために動くようには思えない。

課題:JR東日本との調整 「臨海地下鉄→羽田空港への直通」に必要な事項は?

 いまの臨海地地下鉄の計画にある「羽田空港への連絡」は、詳細が言及されていない。もし直通運転が実現するのであれば、臨海地下鉄(東京駅〜国際展示場前・東京ビッグサイト駅→乗り入れ)→りんかい線(国際展示場前駅〜)羽田空港アクセス線(〜羽田空港)というルートになるだろう。

「羽田空港アクセス線」概要と、「りんかい線」位置関係(JR東日本プレスリリース資料に筆者加筆)

 先に述べた通り、東京駅〜浜松町〜羽田空港間(羽田空港アクセス線・東山手ルート)は、JR東日本の新規路線として31年度に開業が予定されている。国土交通省から公表された資料では、高崎線・常磐線などから、1時間4本の直通列車が羽田空港に直接乗り入れるという。

 もし臨海地下鉄・りんかい線から羽田空港に直通するのであれば、この新規路線のうち、末端部の大井車両基地近辺〜羽田空港間(約9キロ)に乗り入れる必要があるのだ。

かつて「京葉貨物線」として建設された分岐は、現在では「りんかい線」車庫への経路として使用されている(りんかい線の公式Webサイト

 りんかい線は、かつて「京葉貨物線」として建設されたトンネル内の分岐をいまでも車両基地への出入りに使用しており、りんかい線→JR東日本の新規路線への接続は、土地の買収もさほど生じないだろう。

 しかし現在のところ、羽田空港アクセス線3ルートの優先順位は、工事着手に向けて動いている東山手ルート以外は「31年度(東山手ルート開業)以降に検討」となっている。臨海地下鉄が開業する40年頃までに検討しても十分に間に合うが、「臨海地下鉄からの乗り入れ」という東京都の都合が入ると、少なくとも分岐部の工事費用は負担が必要となるのではないか。

 かつ、この新規路線の終点・羽田空港駅は1面2線で計画されており、東山手ルートが前提としている「1時間4本」を越えて臨海地下鉄が乗り入れる場合は、羽田空港駅の拡張などが必要となる可能性がある。

2023年11月時点での臨海地下鉄の計画図(東京都都市整備局 事業計画案より)

 臨海地下鉄と「りんかい線」をどう接続するのかも、気になるところだ。

 東京都都市整備局の資料を見る限りでは、臨海地下鉄の終点「有明・東京ビッグサイト駅」(仮)は幹線道路・環二通り沿い(おそらく地下)に「りんかい線」と直角に行き当たっており、地下のシールドトンネル内にあるりんかい線・国際展示場駅にレールをつなぐことは困難だ。

 もし臨海地下鉄・りんかい線を接続するにしても、どうカーブを描いて地下トンネルに接続するかは想像がつかない。現在の図面はあくまでも仮案であるため、これから考えていくことになるだろう。

 ただ、ここで線路をつなぐことができなければ、臨海地下鉄の車両は「りんかい線」の八潮車両基地を使うことができず、羽田空港への直通もできない。「臨海地下鉄・りんかい線の一体運営」のメリットが薄れてしまうため、是が非でもつなぎたいところだ。

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