“時代の寵児”から転落──ワークマンとスノーピークは、なぜ今になって絶不調なのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2024年02月16日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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ワークマンが不調のワケ

 まず、ワークマンに対する批判として近年主流となっている論調が「職人向け」という同社の本分をおろそかにしているというものである。

 同社は18年ごろを境に「女子向け」「大衆向け」商品などが市場に受け入れられると同時に知名度を上げ、「空調服」といった職人業界のスタンダード商品も同時に売れるようになった。しかし、近年では大衆イメージが定着したこともあってか、もともとのターゲットであった職人層が入りづらくなっているのではないかという批判を受けている。

 確かに、Google Trendsの検索データをみると、ワークマンは18年ごろから急速に一般人による検索認知度が拡大しており、2年足らずで「GU」や「しまむら」とほぼ遜色ない認知を獲得している。

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 そのこと自体は悪いことではないが、「職人向け」という競争相手が少ない市場で、B2B経由の顧客基盤を有していた「ワークマン」が、激戦区であるB2Cの大衆向けファッション市場に足を踏み入れてしまったことで本来のお得意様であったB2Bの基盤を弱めたのではないかというのが、その批判の内容だ。

 企業イメージの変化に消費者や顧客が追い付いていないことも一因だろうが、ワークマンがB2Cに目をつけた経緯も見逃してはならない。同社は08年以降のリーマンショックに伴うB2B需要の減速をきっかけに、B2Cの市場を開拓する必要があると認識した。約10年の試行錯誤をへて実を結び、18年頃からの好調につながった。

 ただし、国内外で建築市場が復調を続けていく中では再びB2Bへの転換やM&Aなども視野に入れたスピーディーな海外展開の可能性を探る必要があったのかもしれない。

 ワークマンにおいては「職人向け」という同社の原点に立ち返るべきか、それともここ数年で培ってきた消費者向けの商品企画や大衆販売向けの在庫管理、店舗運営に振り切っていくべきなのか。はたまたそれらを共存させていくのか。経営陣によるビジョンの発信が不可欠となるだろう。

スノーピークとブーム

 スノーピークの不調は、アウトドアブームによってフリマアプリやオークションサイトなどを中心とした中古市場でのリセールが活発になってきていることも要因の一つと見られる。

 ブームをきっかけに参入したカジュアルな初心者層がスノーピークのような高品質商品を購入した後、キャンプに行かなくなることで大した摩耗もないまま、フリマアプリやオークションで安値で中古流通されれば、スノーピークにとっては「顧客が自社の競争相手」という状況になる。

 スノーピークは体験型の消費で注目を集めていたが、現在でも「手ぶらキャンプ」と銘打って、指定キャンプ場では自社製品の貸し出しサービスを行っている。レンタルサービスを活用して初心者やカジュアルユーザーをアウトドア市場に引き込むことは、中古での二次流通を抑制する上で有効策となりうるだろう。

 貸し出しやレンタルビジネスは、スノーピークにとって直接的な製品販売以外の収益源を創出できるし、リセール価値が高いキャンプ製品はレンタルビジネスとも相性が良い。中古での流通と競争することが課題であるならば、初心者でもなんとか手に届くという価格設定からより値上げを行い、ハイブランドとして舵を切るような展開も検討の余地がありそうだ。

 今回はワークマンとスノーピークが直面する苦境について触れたが、両者はあくまで「減益」であり、事業そのものの継続が難しいといった類の苦境ではない。また、これらの事例はいずれも「明日は我が身」である。市場ニーズの変化や為替・インフレといった経済動向の変化にいかに適応できるかが鍵となるだろう。自社のビジネスが曲がり角に差し掛かったときにこそ、経営陣のビジョン発信とスピーディーな意思決定が求められる。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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