日本人は「労働の奴隷」? 働き損社会ニッポン、GDP4位転落の真因は……河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2024年02月26日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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いつから「労働の奴隷」になってしまったのか?

 そもそも「働く」という行為には、「潜在的影響」(latent consequences)と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在します。

 潜在的影響とは、自律性、能力発揮の機会、自由裁量権、他人との接触、他人を敬う気持ち、他者からの承認、身体および精神的活動、1日の時間配分、生活の安定など。この潜在的影響こそが心を元気にし、人に生きる力を与えるリソースになります。

 ところが今の日本の職場では、潜在的影響がリソースとして機能していません。

 能力を発揮する機会もなければ、自由に決める権利(自由裁量権)もない。他者から認められることもなければ、敬意を示されることもめっきり少なくなりました。

 人は幸せになるために働くのに、働けど働けど幸せになれない。「しんどいし、つらいこともたくさんあるよ。でもね、やった! って思う瞬間があるんだよ。やっぱ働くっていいよね」と思えることが、「働く」という行為なのに。

 仕事への熱意は「自分の存在を認めてくれる」環境があってこそ生まれる感情なのに、それらの経験ができず、ただ「労働の奴隷」として扱われているようになってしまったのです。

熱意を持てずに働く日本人(画像提供:ゲッティイメージズ)

 私たちは本来、頑張ったら、ちゃんと評価されなくてはいけないのに、いつからか私たちは「働き損社会」の慣れっこになってしまったように思えてなりません。

 経済界のお偉い人たちは、「GDP4位転落」という現実の真因、すなわち「人の可能性を信じ、可能性を最大限に引き出すために会社は投資する」という経営の基本に戻っていただきたいと心から願います。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。

2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。


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