会社に「成長意欲がない」幹部がいる やっかいである高賃金化(3/5 ページ)

» 2024年02月26日 08時00分 公開
[田尻望ITmedia]

「枷となるポジション」の幹部層

 このように、組織構造の構築・機能に悪影響を及ぼす人々、組織を機能不全に陥らせるような存在を、私は、「枷(かせ)となるポジション」と呼んでいます。「枷」とは「足枷」というように、心理的・物理的に、進化の妨げになるものを指します。

 この「枷となるポジション(立場、姿勢、見解)」という考え方は、拙著『構造が成果を創る』の中でも触れている重要な視点です。組織には、自分自身の解釈や感情を盾に、成果を生むための構造変革に対して、自らを「枷となるポジション」として、固定してしまう人がいます。彼らは、「自分のやり方が否定されたように感じる」という感情や、「新しいことを始めるのが面倒だ」という感情によって、構造がうまく機能することを妨げる「枷」を生み出してしまうのです。

 枷になっている幹部層がいる組織構造の問題について、一つ例を挙げておきましょう。これは、ある年商1兆円の企業の例です。大企業なので、縦型階層構造を持つピラミッド型の組織になっています。

ピラミッド型組織の弊害(出典:ゲッティイメージズ)

 この会社の会長は、社長以下、全役員・社員に「DX、ペーパーレスを推進せよ」と言っていました。あるとき、現場の社員たちが、上の階層(上司)に対して、「ファックスの代わりに、こんな新しい通信システムを入れたらどうですか?」と提案。組織の階層が深いので、課長、部長、本部長、執行役員といくつもの層を経て、提案が上へ上へと上がっていくことになります。

 途中の階層までは、「ぜひ導入しよう」とOKが出ましたが、本部長クラスになってくると、現場のオペレーションのことがよくわからず、この提案の良し悪しの判断がつきません。その結果、「われわれでは判断できないので、現場の社員の意見もわかるが、費用対効果がわからないなら、採用は見送るべきではないか」となりました。

 そうなると、それ以上の階層に提案が上がらなくなるので、今度は上から下へと「?(はてな)=費用対効果がよくわからない」と返してしまい、結局この提案は却下されてしまっていました。

 このように、意思決定権を持ちながら、物事の良し悪しが判断できず、下から上がってきた提案を「?(はてな)」で返してしまっている人たちが問題なのです。

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