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転勤3カ月で、直後より手取り減──“社会保険料のワナ”に要注意 回避する方法は?社労士・井口克己の労務Q&A(1/2 ページ)

» 2024年02月26日 07時00分 公開
[井口克己ITmedia]

連載:社労士・井口克己の労務Q&A

労働法に詳しい株式会社Works Human Intelligenceの社労士・井口克己氏が、労務関連の素朴な疑問を解決します。

Q: 人事部の給与計算担当者のもとに、数カ月前に大阪から東京に転勤した従業員Aさんが訪れ「一時は異動して残業代が増えたが、3カ月で突然手取り収入が下がってしまった。何か計算が間違っていませんか?」と質問されました。

 同じ時期に転勤し、同じくらい残業している同期のBさんと比較すると、控除額に1万円以上の差が突然発生したことに気付き、疑問を抱いたようです。

 残業代が増えたのに、なぜ数カ月後に手取りが下がってしまうのでしょうか。果たしてそんなことが起こり得るのでしょうか。

残業時間は変わらないのに、転勤直後よりも手取り減 なぜ?

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 同じ時期に異動し、同じように時間外手当が増額された2人に控除額の差が発生してしまうのは、社会保険料の相違が生まれるからです。

 その原因は、Aさんだけが随時改定という社会保険料の見直し制度の対象となるためです。この見直しは時間外手当の増額だけでは発生せず、合わせて通勤手当にも変更があった場合のみ対象となります。

 そこで、転勤時の通勤手当の支給時期を早めることにより、社会保険料の増額を抑えられる場合があります。

社会保険料の見直しの仕組み

 社会保険料は毎年4〜6月に支払われた給与を基に保険料が定められ、原則9月〜翌年の8月まで同じ金額となります。これを定時決定と呼びます。

 しかし7月以降の給与に大きな変更が生じた場合には、社会保険料に変更内容を適切に反映できなくなってしまいます。そこで、基本給や通勤手当、扶養手当など毎月固定的に支払われる給与に変更があった場合は、変更があった月から3カ月分の給与を基に社会保険料の見直しが行われます。これを随時改定と呼びます。

 この見直しは、変更後3カ月の給与の平均額から算出される標準報酬月額が変更前の標準報酬月額より2段階以上上がったとき、または下がったときに変更されます。2段階未満の場合には社会保険料は変更されません。

 今回の事象を具体的に説明します。

 異動前は基本給25万円、通勤手当2000円、時間外手当0円、社会保険料の標準報酬月額26万円、異動後は基本給25万円のまま、通勤手当は1万円に、時間外手当が7万円に増額したとします。

photo Aさんの異動前後での給与の差異(画像はWorks Human Intelligence作成、以下同)

 10月に異動し、変更後の通勤手当、時間外手当が異動月の翌月に支払われる場合、異動月前後の手当は次の表のようになります。

photo

 随時改定は、固定的な給与に変更があった月から3カ月の給与を基に、社会保険料の見直しを行います。この場合は、11月に通勤手当を月当たり2000円から1万円に増額したため、11月〜翌年1月の給与が見直しの基礎となる金額となります。

 この3カ月間の平均給与は33万円、標準報酬月額表に当てはめると標準報酬月額は34万円となります。従前の26万円から4段階上昇するため、随時改定の対象となり、2月から標準報酬月額が改定されます。2月分の社会保険料が3月の給与から控除されるため、3月の社会保険料が月額5万1289円に増額されます。従前の月額3万9221円から1万2068円増額されました。

 その反面、通勤手当に変更のなかった社員は随時改定の対象にならないため、社会保険料の見直しは行われず、3万9221円のまま据え置かれます。

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