SNSの普及により情報が瞬時に拡散する現代社会において、デマの流布は大きな問題となっている。特に金融機関に関する不安を煽る情報は、取り付け騒ぎという深刻な結果を招きかねない。この記事では、福岡銀行が直面した取り付け騒ぎのデマ問題と、その見事な対応について掘り下げていこう。
同行の発表によれば、3月3日に特定のX(旧Twitter)アカウントが「福岡銀行が3月14日に取り付け騒ぎが起こることに備えて行員に通知した」という内容が投稿したという。この投稿は拡散され、140万回以上も閲覧されるに至った。しかし、この情報は完全に誤りであり、福岡銀行は「そのような事実はない」と明確に否定している。
まず、福岡銀行の対応が優れていた点は、迅速な否定と正確な情報の提供だろう。デマが拡散し始めた直後に、公式WebサイトやXを通じて事実無根であることを明確にし、顧客や一般の人々へ安心を与えた。また、投稿は削除されたものの、3月5日の記者会見では、投稿者の刑事告訴を検討していることを明らかにした。
デマを無視せず毅然と対応した同行の姿勢に対して、やや過剰ではないかという見方も存在するようだ。
しかし、このような「取り付け騒ぎ」に関連する内容はたとえどんな小さな火種であっても消しとめておかなければならない。
最も有名な事例は、1973年に発生した「豊川信用金庫事件」だろう。これは女子高生の雑談で、強盗が来るという文脈で発せられた「銀行が危ない」というウワサ話を聞いた市民が同社の経営が危ないと勘違いしたことがきっかけで、大量の預金引き出しが発生したというものだ。
昭和の一大事件としてピックアップされることも多い事件だが、実はこのような取り付け騒ぎは平成、令和の時代になっても度々発生している。
2007年の経済好況期に、英国の大手銀行「ノーザン・ロック」が流動性の危機に陥った。この銀行は、その資金の大部分を資本市場からの短期借入れに依存していたことが報じられると、顧客は自己の資金を保護しようと銀行に殺到したのである。
また、22年には米国でも複数の銀行が経営基盤の不安定さを報じられて間もなく取り付け騒ぎが発生し、経営破綻に至った点も記憶に新しい。本来は潰れずに済んだかもしれない金融機関が取り付け騒ぎによって潰れてしまったり、そのスピードが加速してしまったりすることが起き得るのだ。
つまり、事実の有無にかかわらず、取り付け騒ぎは金融機関をつぶすだけの力があり、小さなデマや事実の誇張を見逃すことは命取りになるのだ。そう考えると、福岡銀行の対応は、実は非常に合理的かつ効果的であったと言えそうだ。
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