日経平均、史上最高値は“まやかし”か? 消費者の懐が暖まらない決定的な理由実感涌かず(2/2 ページ)

» 2024年03月15日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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バブル期との決定的な違い

 今、コンビニで100円でおにぎりを買うことは絶望的だ。10円の駄菓子として親しまれてきた「蒲焼さん太郎」も22年の値上げで15円になった。キリの良い価格設定を維持するため、従来は内容量の減少などで補う「実質値上げ」が行われてきたが、それでも原価高騰を吸収できなくなってきたようだ。

 では私たちが受け取る給与が上がったかというとそうではない。国税庁が23年9月に発表した民間給与実態統計調査によると、日本人の平均給与は458万円と2.7%増にとどまった。

 同じ期間、ドル円相場は115円から一時150円まで円安が進行した。円の価値が30%相対的に低くなり、給与の額面が2.7%しか上がらなかったら、生活が苦しくなるのも当然だ。

 日経平均株価4万円という株高も「ドル建て」で見れば約262ドルであり、21年の高値279ドルも超えられていない。ある意味で「まやかし」の史上最高値といっても差し支えないだろう。

 今の株高を例えるならば、“薄いカルピス”のようなものかもしれない。「本質的な企業価値」という原液を、「円安」という水で薄めることで見た目上の総量が大きく見えているだけなのかもしれない。

 これとは対照的にバブル期は、為替相場が1ドル250円台から130円台まで、急激な円高を伴いながらの株高となった。つまりドル建てで見たバブル時代の日経平均の高騰は、輸入品の値下がりという人々の生活に直結する側面でも懐の暖かさを実感できたのだ。

 このように考えると、株高が円安頼りなうちは、生活が楽になる未来は想定しがたい。

日経平均の「価格」に深い意味はない

 そもそも日経平均株価とは、東京証券取引所のプライム市場に上場する銘柄の中から選ばれた225銘柄の株価を平均した株価指数だ。この指数は、日本の株式市場の代表的な指標として広く認知されており、日本経済の動向を示す重要な指標の一つとされている。

 では、今の市場はバブルなのだろうか? この点について、企業価値の観点からも確認したい。1989年と2024年の株式市場は、時代背景や株価バリュエーションにおいて大きく異なっている。今回の日経平均株価の史上最高値更新とバブル期との比較について考えると、当時の株式市場は、PER(株価収益率)が約70倍に達するなど、非常に高く評価されていた。

 PERが70倍ということは、企業が1年に生み出す利益の70年分を先取りした企業価値で株価が評価されていたということだ。一方で、最近の市場の日経平均PERは約23.61倍となっており、より現実的な評価がなされている。

 確かに、この数値は従来の日経平均PERの相場であった15倍からは高い数値になっている。しかし、バブル期と同じ景況感となるPER70倍を日経平均PERに当てはめると、日経平均は少なくとも12万円を突破していなければならない。

 PERをベースに置いた単純比較であれば、今の株価は、バブル期のピークよりも依然として70%近くのマイナスという状況だ。この点からも「バブルの実感がない」のは当然だし、賃上げ余地もそれほど大きくなさそうであることが分かる。

 今回、日経平均株価が4万円を超える史上最高値を記録した背景には、輸出セクターを中心とした企業の利益増、国内外の経済状況の改善、金融政策、生成AIの隆盛に伴う労働生産性が向上することへの期待が大きい。

 「1万円札でタクシーを呼び止める」「新卒研修がハワイ旅行」といったバブル期の華やかさは戻ってこないだろう。しかし裏を返せば、バブルの時代とは違って実体経済に則した評価がなされているといえる。「失われた30年」を奪還した手応えは、もう少しゆっくりとした足取りでやってくるのではないだろうか。

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