マーケティング・シンカ論

「ゲゲゲの謎」予想外の大ヒット 広告は見かけないのになぜ?(1/2 ページ)

» 2024年01月16日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 2023年11月17日に公開した映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の勢いが止まらない。年末年始も客足が衰えることなく、興行収入は20億円を突破している。SNSでは女性のリピーターを中心とした一種のムーブメントが発生しており「ゲ謎」という愛称も定着している。

 筆者も池袋で同作を鑑賞したが、映画館の観客の大半は友達連れの女性客で占められていた。同作は水木しげる生誕100周年記念作品として、幽霊族の生き残りである鬼太郎の父にスポットライトを当てた作品だ。ホラーミステリーとしての魅力と活劇としての面白さがあり、満足度の高い内容であった。

出所:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』公式Webサイト、以下同

 しかしネット上でも街中でも「ゲゲゲの謎」の広告を見かけたことはない。その一方で、SNSを通じた口コミが火付け役となり、上映館数が少ない中でも顕著な興行収入を記録している。この点はスタジオジブリが公開し、話題を呼んだ『君たちはどう生きるか』を思い出す。

 しかし「君どう」がある程度戦略的な狙いがあった一方で、ゲ謎はどうやら事情が異なるようだ。水木しげるの長女である原口なおこ氏は自身のXで「ゲ謎」についてヒットしたことは予想外であったとの胸中を明かしている。

 当初はひっそりと展開する、いわばファンサービスのつもりであったのかもしれない。こうした作品が広告やマーケティングに大きな予算をかけることなく、口コミの力で人気を博しているのはなぜだろうか。

広告費もかけず……なぜ大ヒット?

 近年、ファンが自身の「推し」のために行う「応援消費」という消費傾向がよく見られるようになった。こうした傾向は『名探偵コナン』や『鬼滅の刃』の映画の成功パターンにも見られる。

 「ゲ謎」の反響をよく見ると、SNSでは、作中の舞台が田舎の村であることになぞらえて「○回目の入村」とリピートを報告するファンが多い。そもそも映画館で見る映画はよっぽどの名作でない限り1回の視聴で終わる、いわば単発型のビジネスであった。

 しかし、近年では「応援消費」という推し活の一環として、応援するキャラクターが登場する作品を繰り返し視聴し、興行収入ランキングを押し上げる動きがある。例えば名探偵コナンに登場する赤井秀一と安室透を「興行収入〇〇億円の男!」に持ち上げるような動きだ。ではゲ謎はどうか。

 ゲゲゲの鬼太郎のアニメシリーズは18年の第6期をきっかけに従来のデザインから大きく変更され、よりスタイリッシュで現代的なキャラクターデザインになった。この時はどちらかといえば「猫娘」や第6期からの新キャラクター「犬山まな」などの女性キャラクターがとても可愛くなったと男性ファンを中心に話題を巻き起こしたものの、女性ファンの顕著な増加はみられなかった。

鬼太郎の父

 ゲ謎では、これまで「目玉おやじ」として描かれてきた鬼太郎の父が「白髪の高身長」の主役として抜擢(ばってき)されている。もう一人の主人公の水木は、鬼太郎の父とは対照的な「黒髪スーツのサラリーマン」。こうした魅力的な男性キャラクター作りの点で、これまでのシリーズ作品と大きく異なる。従来は女性ファンの受け皿となりうるキャラクターは鬼太郎くらいしかいない状況で、見た目が幼いこともあって女性ファンがメインのコンテンツにはなっていなかった。

水木
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