それでも円安は続くのか 日銀「17年ぶり利上げ」の影響は古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2024年03月22日 10時45分 公開
[古田拓也ITmedia]

 2024年3月19日、日本銀行は長期にわたる異例の金融緩和策に大幅な修正を加える“利上げ”に踏み切った。日銀の植田総裁は、2%の物価安定目標が持続的かつ安定的に実現していく見通しや、着実な賃上げ基調を材料に黒田前日銀総裁の導入したマイナス金利政策から脱却したのである。

 超過準備への付利金利が引き上げられ、0.1%に設定されたことで、銀行の収益性が向上すると見込まれる。

 また、植田総裁の就任当時からうわさされていたイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃も今回の政策決定会合で実行された。

 その他にも、国債買い入れプログラムの見直しや株式指数ETFのようなリスク資産の買付を終了するなど、黒田日銀下で実行されたさまざまな非伝統的金融政策の幕を引き、通常の伝統的な金融政策に転換する姿勢が顕著に出てきた会合であるといえよう。

20年続いた「金利がつかない」という当たり前 利上げでどう変わる?

 日銀のこの決定は、中小企業の賃上げ率が4.42%と32年ぶりの高水準に達したことだけでなく、日経平均株価指数が市場最高値を更新したことも要因の一つであるかもしれない。

 政府や国民が広く納得しうるタイミングで、金融引き締め効果もある利上げ政策を断行することにより、金融政策の正常化と物価高の抑制に着手したいという日銀の考えが浮き彫りになる。

 しかし、大手飲食チェーンや小売店の間では、物価高応援という名目で値下げに踏み切る動きも散見される。コンビニチェーンでは、価格はそのままで内容量を大幅に増量する「実質値下げ」キャンペーンが好評となるなど「デフレ」に逆戻りする端緒となりうるイベントもある。

 長らく「金利がつかない」ことが当たり前になっていた日本経済だが、この決定は日本のビジネス環境にどのような影響を与えるのだろうか。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 日銀が利上げを行うと、最も直接的な影響がまず金融市場に表れる。金利の上昇は、銀行預金の利息を引き上げる一方で、事業性ローンや住宅ローンの利息負担が増加することにもつながり、金融機関の貸出条件が厳しくなる可能性がある。

 つまり利上げは、新規事業や新規創業にあたって融資での資金調達が難しくなることを意味する。では、株式で資金調達をすれば良いのではないかと思われがちだが、それも難しくなると考えてよいだろう。

 なぜなら利上げは、新規に発行される国債や社債といった低リスク資産の利回りをも上昇させるからだ。これにより、資金を運用する者にとっては、あえて価格変動リスクの高い株式でリスクテイクしなくても、債券の運用によって着実にリターンを得ることができるようになる。

 金利の上昇は、企業の資金調達コストを高め、投資家のリスクテイク姿勢を抑制させる。このため、特に資金需要の高い成長期にある企業や、高い借入れを抱える企業にとっては大きな打撃となる。

 これにより、以前と比べて設備投資や研究開発が難しくなり、長期的な成長機会の損失につながる恐れに注意したい。だからこそ利上げは「金融引き締め」につながるわけだ。設備投資の需要が陰れば物価上昇率は鈍化し、インフレ圧力を緩和させる点でデメリットばかりではないが、バランスが肝心なのだ。

 預貯金の利息収入が増えることで、一部の所得は増加するかもしれないが、銀行の預金金利が政策金利に比例して高くなることは期待できない。長期金利が5%程度で推移した米国の大手行でも、おしなべて普通預金金利は1%未満で推移していた。

 その流れをくむとすれば、預金利息にもそこまで期待できないだろう。預金金利がこれまでの10倍、20倍と言われているが、0.01%未満の小さい数字の上げ下げで倍率を用いるのは適切とは言いがたい。倍率を使えば非常に大きな変化のように感じられるが、実際にはほとんど増加していない。

 このような表現は、金融リテラシーが低い人々の誤解を招く可能性があり、実際の経済活動における金利の効果を正しく理解する上で障壁となり得る。金融機関のPRには注意しておきたい。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.