マーケティング・シンカ論

なぜ企業は「誰も使わないアプリ」を生み出すのか? 顧客の気持ちをないがしろにしてしまうワケLTVの罠(2/2 ページ)

» 2024年03月25日 08時00分 公開
[垣内勇威ITmedia]
前のページへ 1|2       

妄想を抱かず、「ボトルネックの解消」に注力すべき

 もしカスタマージャーニーを本気でねじ曲げたいと思うなら、非常に大掛かりな仕掛けが必要です。例えば、アプリで顧客を囲い込みたいと願うなら、顧客が毎日使いたいと思うアプリを作らなければなりません。

 皆さんもスマートフォン(スマホ)のホーム画面を開けば分かるかと思いますが、最初のページに入るのは至難の業でしょう。例えば、私のスマホのホーム画面に入ろうと思うなら、LINE、Gmail、日本経済新聞、Twitter、Slackなどと並ぶくらい頻繁に使われなければなりません。

 本気でそのようなアプリを作るのであれば、とてつもないコストと時間を要します。まして自社の本業でもない領域でアプリを作ろうとするならば、それは極めて困難な道のりになります。使い勝手に優れたアプリで知られる中国の「平安保険」の成功事例をちらっと見ただけで、自社でも同じようなことができると思ったら大間違いです。

カスタマージャーニーに対するアプローチ(出所:垣内勇威著『LTVの罠』)

 平安保険は、生命保険を売るために、国民の大半が使う無料医療相談アプリを提供して成功を収めました。しかし、そんな国民の大半が使うような「無料医療相談アプリ」を作ることができる日本企業が、いったい何社あるでしょうか。

 あなたが時価総額トップ10に入っている会社の社長でもない限り、まずは現実を見つめ直してください。99%の企業は、カスタマージャーニーをねじ曲げようだなんて、そんな大それた野望は抱かず、カスタマージャーニーの一部だけを改善する「ボトルネックの解消」に集中すべきです。

 繰り返しになりますが、LTVボトルネックを解消するアプローチは、障害のある点だけに対応すればいいので、素早く低コストで改善できます。LTV改善という壮大なテーマに、コスパ良く対応できる唯一の方法なのです。

著者プロフィール:垣内勇威(かきうち・ゆうい) 

photo

WACUL 代表取締役

東京大学卒。ビービットから2013年にWACUL入社。改善提案から効果検証までマーケティングのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」を立ち上げる。19年に産学連携型の研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」を設立。研究所所長および取締役CIO(Chief Incubation Officer)として新規事業や新機能の企画・開発およびDXコンサルティング、大企業とのPoC(概念実証)など、社内外問わず長期目線での事業開発の責任者を務めてきた。22年5月に同社代表取締役に就任。著書に『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』(日本実業出版社)など。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠

自社の製品やブランドを末永く愛してもらい、顧客と良好かつ継続的な関係を築いて利益を最大限に高めたいが、有効な手だてが見つけられない企業は多い。実際「LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)」という言葉や概念は浸透しているが、正しくマーケティング戦略に組み入れ、機能させている企業は想像以上に少ない。本書はLTV向上施策において、顧客が逃げ出してしまう「4つのボトルネック=MAST」を浮き彫りにし、企業と顧客が向き合う接点ごとに有効な対処法を紹介。マーケティングや営業、顧客サービス部門の担当者がすぐに実践できるよう、多彩な事例を示しながら分かりやすく解説する。真に顧客から「愛される企業・ブランド・製品」を目指す企業担当者にとって必読の1冊。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.