マーケティング・シンカ論

なぜ企業は「誰も使わないアプリ」を生み出すのか? 顧客の気持ちをないがしろにしてしまうワケLTVの罠(1/2 ページ)

» 2024年03月25日 08時00分 公開
[垣内勇威ITmedia]

この記事は、垣内勇威氏の著書『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(日経BP、2023年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。

 一般的にLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)向上のミッションを担った人は、カスタマージャーニーの「部分改善」ではなく、「全体改造」をもくろみます。確かにカスタマージャーニー全体を一発で改造してLTVを向上できるなら、それほど楽なことはありません。

誰も使わないアプリ、なぜ生まれる?(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 ただし、カスタマージャーニーを全体改造しようとする施策は、非常に高い確率で失敗することを歴史が証明しています。失敗する最大の原因は、顧客の気持ちをないがしろにして「カスタマージャーニーをねじ曲げよう」としている企業側の傲慢(ごうまん)さにあります。

「やった感」のある仕事に飛びつき“廃墟アプリ”が生まれる

 まず大前提として、顧客側に主導権のあるカスタマージャーニーを、企業側が操作するのは極めて困難です。企業にできることは、顧客視点での障害を突き止め、顧客にもメリットのある形でカスタマージャーニーを微修正する「ボトルネック解消」だけです。

 しかしカスタマージャーニーの微修正は、かなり“地味”な仕事です。例えば、プロ野球球団のWebサイトに「初心者向けのページ」を1枚追加しても、社内からの評価はぱっとしないでしょう。この追加したページが、いかにカスタマージャーニーにおいて重要な位置付けかを熱心に説明し、KPI(重要業績評価指標)がどの程度改善したかまで社内に説明できなければ、評価にはつながりません。

 企業の担当者からすれば、成否はともかくとして「やった感」のある派手な施策のほうが、自分の成果としてうたいやすく、出世にもつながります。こうした企業担当者の虚栄心によって、一見派手なアプリ・メディア・会員プログラム開発、ツール導入、ブランド刷新などのプロジェクトが猛烈な勢いで誕生してしまうのです。

 これらの施策でカスタマージャーニーをねじ曲げることは当然かなわず、顧客から見向きもされない“廃墟”になります。その担当者が出世した後、数年たってから静かにクローズされるだけのむなしい存在なのです。

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