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フリーランスへの発注ルールが変わる 24年秋施行の新法を解説

» 2024年03月26日 14時00分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 2023年4月28日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス新法の法案が可決され、5月12日に交付された。公布から1年6カ月を超えない範囲内で施行されるということなので、2024年秋ころの施行が見込まれている。

 フリーランス新法は、どのような背景で生まれたのだろうか。また、施行により業務を発注する企業、それを受けるフリーランスにどのような影響があるのだろうか。気を付けるべきポイントや罰則の有無は?

 フリーランス新法の概要を、ランサーズ 取締役 曽根秀晶COOの解説を交えながら紹介する。

【なぜできたのか?】フリーランス新法が誕生した背景

photo フリーランス新法の概要や、企業が取るべき対応を解説する(提供:ゲッティイメージズ)

 フリーランス新法の目的は「特定受託事業者に係る取引の適正化」および「特定受託業務従事者の就業環境の整備」だ。なぜ今になってそのような法律が生まれたのだろうか。

 曽根氏は「この10年ほどで、フリーランスの総数は1.6〜1.7倍に増えた」と見ている。国の統計で分かる範囲だけではなく、会社員として働きながら副業でフリーランスとしても働く人などを含め、独自に算出したものだ。

 「21年の段階で、労働人口6500万人ほどに対し、フリーランスは1500万人。4人に1人がフリーランスという働き方をしていることになる。また、フリーランスへの報酬も20兆円以上となっており、経済規模的に見過ごせない状況になってきたというのが、背景の一つにあると思う」(曽根氏)

 人口も取引額も増えてきたことから、摩擦やトラブルも見られるようになってきた。「労働力として重みを増してくるフリーランスを、企業が正しく適切に活用していく仕組みを国が作っていかなければならない。フリーランス新法は、そのような背景から生まれた」(曽根氏)

【対象範囲はどこまでか?】新法の保護対象「特定受託事業者」とは

 フリーランス新法の目的や概要を紹介する前に、保護対象となっている特定受託事業者について簡単に触れておきたい。

 「フリーランス新法」「フリーランス保護法」と呼ばれることが多い新法。本稿でも「フリーランス新法」と表記しているが、実はこの新法の条項内に“フリーランス”という語は一切出てこない。「特定受託事業者」のことを分かりやすくフリーランスとしているだけなのだ。

 この特定受託事業者とは、従業員を使用しておらず、かつ受託業務を行う事業者を指す。代表者以外に役員や従業員がいなければ、法人も特定受託事業者に含まれる。

 また、特定受託事業者へ業務委託をする事業者を「業務委託事業者」と呼び、その中でも従業員のいる事業者(組織的事業者)を「特定業務委託事業者」と呼ぶ。

 「下請代金支払遅延等防止法」いわゆる下請法と異なるのは、資本金が要件に含まれないことだ。そのため、フリーランスがフリーランスへ発注する場合も、フリーランス新法の規制対象となるので注意が必要になってくる。

 なお、本稿では特定受託事業者を「フリーランス」、委託事業者や特定委託事業者を「発注者」と表現する場合もあることをご了承いただきたい。

【ポイントは?】フリーランス新法の目的と規定

 フリーランス新法の目的は以下の2つとされている。

  • 特定受託事業者に係る取引の適正化
  • 特定受託業務従事者の就業環境の整備

 そして、その目的を果たすために以下の2つの規定が設けられている。

  • 取引の適正化に関する規定
  • 就業環境整備に関する規定

 いずれも、業務委託が1カ月以上にわたって継続される際に適用される。それでは、規定の内容を詳しく見ていこう。

(1)取引の適正化に関する規定

 特定受託事業者の取引の適正化を実現するための規定で、管轄は公正取引委員会だ。

 ポイントとなるのは「取引条件の明示義務」「支払い遅延の禁止」そして「受取拒否などの禁止」だ。

 これまでは、仕事内容や報酬額、支払期日などを口約束で取り決めすケースもあったかもしれない。しかし今回、新たに「書面または電磁的方法(電子メールなど)により明示しなければならない」と定められた。

 また「フリーランス側に非がないにもかかわらず、成果物の受領拒否、返品、やり直し命令をすること」は禁止された。報酬の減額も禁止された。さらに、相場より著しく低い報酬の額を定めることも“不当”であると明文化された。

 「取引条件の明示化は当たり前だし大切なことなのだが、合意が得られていれば口約束でも業務委託が行われる習慣があった。それにより生じてしまうトラブル回避のため、取引条件の明示化をフリーランス側が言いづらい環境にあった。

 『どんな仕事を、いくらで、いつまでに支払う』と明示すべきことを法律で明文化したのはトラブル防止に役立つだろう」(曽根氏)

photo ランサーズ 取締役 曽根秀晶COO

(2)就業環境整備に関する規定

 特定受託業務従事者の就業環境の整備のための規定で、管轄は厚生労働省となっている。

 ポイントは、募集情報の明確な表示、ライフステージで生じうることへの配慮、ハラスメント対策、契約解除予告義務だ。

 これに関し曽根氏は「自社の労働者に対して気にかけているのと同じことを気にしましょう、という法律になっている」と解説。

 例えば、採用広告で仕事内容や給与に関する虚偽情報を掲載しないこと、妊娠、出産、育児や介護などが必要な場合、働き続けられるよう配慮すること、パワハラやセクハラにより労働者の働く環境を害さないこと、万が一あったとしても内部通報の仕組みを設けることなどは、従業員(またはこれから従業員になる人)に対して当たり前のように行っているだろう。

 「1カ月前に契約解除予告を出すことを義務としたのは、フリーランスと企業の関係を1歩前進させるものだ」と曽根氏は評価する。

 「フリーランスにとって、単発発注なのか継続発注なのかは、収入に直結するので最も気になるポイントだ。また、一定以上の規模の企業に勤めている人であれば、周りからのフィードバックを得る機会があるが、フリーランスにはそれがない。だから突然切られてしまい、仕事の割合によっては(収入的に)クリティカルヒットになってしまう。

 今回のフリーランス新法では、30日前までに解除予告を出すことに加え、理由を問われたらその説明をする義務も発注者側に課している。フリーランス側にとって見ればフィードバックを得られるようになる。その30日の間に別の発注者を見つけることもできる。明示が義務付けられたことで、対策を取れるようになる」(曽根氏)

【違反したらどうなる?】罰則規定

 ここで気になるのは、フリーランス新法の実効性だ。違反に対する罰則規定は設けられているのだろうか。

 実はフリーランス新法に違反すると、最大で50万円以下の罰金という罰則が生じる。もちろん、いきなり罰金というわけではなく、段階を踏んでいく。

 まず、違反が見られた場合、フリーランスは公的機関に申し出ることができる。取引適正化に関するルールに違反している場合は公正取引委員会・中小企業庁所管の申出先へ、就業環境の整備に関するものであれば厚生労働省所管の申出先へ申し出る。

 申し出を受けた公的機関はその内容を調査し、事実と認められた場合、違反を正し、今後違反しないための防止策を取るよう勧告する。立ち入り調査や帳簿書類やその他物件の調査を行うこともある。

 従わない場合は、命令へと段階が上がる。命令があったという事実を公表する場合もある。

 命令に従わず、虚偽の報告を行う、検査の拒否・妨害をするなど悪質な場合、50万円以下の罰金が課される。なお、違反した人の雇い主または法人の代表者だけでなく、違反した本人に課す「両罰規定」となっている。

 妊娠、出産、育児・介護への配慮への義務違反は勧告の対象外、ハラスメント防止違反は命令の対象外となっているが、ハラスメント防止対策を怠ってきたことについての公表がなされる場合がある。また、ハラスメント対策について報告しなかった、または虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料となることを覚えておきたい。

【どう準備すべき?】企業が取るべき対策

 では、企業はどのような対応をしておくべきだろうか。

 「『何を、いくらで、いつまでに』という部分への対策をしっかり取ってほしい」と曽根氏。「法律で規定されたので明示するのは当たり前。ただ、相場感が分からないと、発注金額で悩んでしまいがちになる。フリーランス側から言いづらい部分でもあるので、調査して相場感を把握してほしい」と解説する。

 また、作業していく中で成果物の方向性を変える必要が生じた場合は、「お互いの合意を文書で明示することを徹底する」必要性についても言及した。「採用と同じレベルの業務フローを整備する、と考えるとスムーズかと思う」

 「急な減額やハラスメント、支払い遅延などが生じたときのための相談窓口を整備することができるかもしれない」と曽根氏。これもまた、従業員の場合に内部通報制度があるのと同じである。

 企業側は、フリーランス新法により手間が増えたと考えるべきだろうか。曽根氏は「お互いにポジティブな影響が生じるだろう」と期待する。「企業が適切な発注を行えるようになれば、優秀なフリーランスが集まり、人材獲得、競争優位性、生産性向上につながり、お互いを仕事上の良いパートナーと捉えられるようになる」と解説した。

 社員数名の企業でも、20人のフリーランスと仕事をすることで業績を上げている事例もあるという。

 「なぜフリーランス新法に合わせて社内整備をするのか、それによってどのようなメリットが得られるのかを、管理部門は発注担当者へ定期的に周知したり、いつでも閲覧できる場所に掲示したりすることで、トラブルを未然に防げる」と曽根氏は具体的な対策方法を挙げた。

 「仕事を受ける側として、してもらいたいことを言い出しづらかったフリーランスでも、法律ができたことで言えるようになる。そしてそれが良い発注につながる。

 企業側は、社外のプロとの良い関係を培いつつ活用できる。フリーランス新法は、どちらにとってもポジティブな影響を与える法律なので、面倒がらずに対応してもらいたいですね」(曽根氏)

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