「シーチキン 虫混入動画」で会社側が訴えても、逆にリスクになってしまう理由スピン経済の歩き方(1/7 ページ)

» 2024年03月27日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

 「これは高額訴訟を覚悟しておいたほうがいい」「今からでも遅くないので、とりあえず謝ったほうがいいのでは」――。

 そんな風にSNSで盛り上がっているのは「シーチキン虫混入動画」だ。あるSNSユーザーが知人からシェアされたというこの動画は、フライパンでニンジンなどの野菜とあえたシーチキンを箸でつまむと、そこには生きた幼虫がうごめいていた、という衝撃的な内容だった。その後、同ユーザーが写真付きで投稿した説明によると、幼虫は3匹いて、そのうち2匹は死骸だった。既にメーカー側が回収したという。

はごろもフーズの「シーチキンマイルド」(出典:プレスリリース、以下同)

 「丸亀製麺のカエル、マクドナルドのゴキブリに続いて、シーチキンよ、お前もか」となるかと思いきや、投稿からほどなくして風向きがガラリと変わる。虫に詳しいSNSユーザーから、「この幼虫は野菜に付着するものではない」との指摘が寄せられたのだ。そこにダメ押しをしたのは、製造元のはごろもフーズが『週刊女性PRIME』からの問い合わせに寄せたこんな回答だ。

「一般的に、レトルトパウチ製品や缶詰は、容器を密封した後に、高温高圧で殺菌しています。万が一、密封前に虫などが混入しても、生存できる環境ではありません。」(『週刊女性PRIME』 2024年3月24日)

 このような形で、あの動画には不可解な点があると指摘したのだ。本回答を受けてSNSでは例によって、「悪人に石を投げて日ごろの憂さを晴らしまショー」が催され、冒頭のようなざんげや謝罪を求める声が上がっているというわけだ。

 さて、そこで気になるのは、幼虫のカタラーゼ反応を調べて製造過程に混入した可能性が低いとなった場合、企業側は危機管理の観点から動画の撮影者や投稿者を信用毀損(きそん)罪や業務妨害罪で訴えたほうが「正解」なのかという点だろう。実際、広報セミナーをやると危機管理担当者からこのような質問をいただくことも多い。

 では、筆者はそこでどう答えているかというと、「訴えるのはやめたほうがいい」だ。報道対策アドバイザーとしてこの手の異物混入にも関わった経験から言わせていただくと、はごろもフーズが動画投稿者たちを訴えることは百害あって一理なしだ。

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