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「半導体人材」育成に注力 東北大、熊本大の連携で狙う「世界最先端の研究」

» 2024年03月29日 18時07分 公開
[今野大一ITmedia]

 東北大学と熊本大学は3月29日、人材の育成や教育の充実、研究推進を目的とした包括連携協定を締結したと発表した。それぞれの特色と教育研究資源を生かし、半導体人材の育成や生命科学を柱とする未来型医療の創造などを目指す。伝統的に半導体分野に強みを持つ東北大と、新課程を始めるなど半導体研究に活路を見いだした熊本大の連携によって、産業界に優秀な人材を輩出していくことになりそうだ。

熊本大の小川久雄学長(左)と東北大の大野英男総長

東北大の大野総長「世界最先端の研究の場を常に作りたい」

 両大学はまず半導体と量子コンピュータにおける教育と研究で連携をスタートさせる。仙台市内で開いた記者会見で東北大の大野英男総長は「両大学の強みを生かしながら、社会価値の創造と、社会課題の解決に貢献していきたい」と期待を述べた。

 宮城県と熊本県では半導体の製造工場の建設が続々と決まっている。熊本県菊陽町では、半導体の受託生産で世界最大手の台湾企業「TSMC」(台湾積体電路製造)が2月、日本では初めてとなる工場(第1工場)を開所させた。岸田総理大臣も4月に熊本県を訪問し、工場を視察する方向で調整している。さらに同社は県内に第2工場を建設する計画も発表した。

 宮城県大衡村でも、SBIホールディングスと台湾の半導体受託生産大手「PSMC」(力晶積成電子製造)が半導体製造工場の設立を予定しているなど、宮城県、熊本県の両地域は共に半導体での経済成長の促進を見込んでいる。

 こうした状況を受け、熊本大の小川久雄学長は「半導体分野での人材育成が喫緊の課題となっている」と話す。同大はTSMCの進出を受けて4月、新たに情報融合学環と工学部半導体デバイス工学課程を設置するなど、半導体分野で人材育成を強化する方針だ。

熊本大の小川久雄学長は「半導体分野での人材育成が喫緊の課題となっている」と話した

 政府は経済安全保障の観点からも半導体が重要だとして国内の生産基盤の強化を目指し、TSMCに最大で1兆2000億円規模の支援を決めている。

 TSMCが2月24日に開催した第1工場の開所式で、齋藤経済産業大臣は「日本はかつて、半導体業界で世界一のシェアを誇っていた。だが官民双方が時代に取り残され、競争力を落としてきた。日本で初めてとなる工場が開所式を迎えたことは、日本の半導体業界におけるミッシングピースが埋まる極めて意義深いもの」と述べ、国を挙げて半導体業界を支援していく考えを明かした。

左から熊本大の富澤一仁副学長、小川久雄学長、東北大の大野英男総長、冨永悌二副学長

 3月29日に、東北大学総長として在任最終日を迎えた大野総長は、最後にあらためて連携の意義を語った。

 「世界最先端の半導体研究の場を常に作っていきたい。世界の研究開発の一端を担っている取り組みをさらに強化する意味で、熊本大学さんのお力をお借りして、国による半導体再興に資する活動をさらに進めていきたいと考えている」

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