なかには、仕事より大事にしたいことが明確にあり、最初から「職場では必要最低限のことをやっておこう」と決めている人もいるだろう。しかし大部分の人は、就職や転職をするときには「ここで頑張ろう」とか「成果を認められたい」と考えているはずだ。
「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place To Work Institute Japanが今年行った調査でも、自分は「静かな退職」状態にあると自己認識している人の71.0%が、働き始めてからそうなったと回答しており、中でも「働き始めてから3年以内」が多い。
その理由として最も多いのは「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになったから」(38.2%)で、「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)から」(27.3%)が続く。入社後に、仕事へのモチベーションが下がるような出来事があったことが推察される。
裏を返せば、企業側の努力によって社員が「静かな退職」状態に陥るのを防げる可能性が少なからずあるということだ。
上述の調査では、静かな退職の状態にある人の約4割が「勤め先の環境で変化があっても働き方は変わらない」と回答した。すでに気持ちが冷めてしまった社員に対し、後から働きかけても情熱を取り戻すのは難しいということだ。
つまりこれには事前の対策が求められるわけで、そのために重視すべきことを3つ提案したい。
1つは社員のワークライフバランスと健康だ。
静かな退職を選んだ理由として「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになったから」が最多なのは、プライベートを大事にする最近の若者の風潮や、育児や介護などの制約がありながら働く人が多いのが1つの理由だろう。しかしそれだけでなく、どちらかというと仕事熱心だった人が、プライベートを犠牲にして頑張った結果燃え尽きてしまうというケースもある。
どちらにしても、本人が「こんな仕事の仕方は続けられない。ほどほどにしておこう」と決意する前に、無理なく続けられる働き方や体制を整えるべきだ。
重視すべきことの2つ目は、社員のやりがいだ。
何によってやりがいを感じるかは、お客さんが喜ぶことや社会的な意義、自分の成長実感、他人からの称賛や評価、給与など人それぞれだ。だから、上司や人事担当者は、その人がやりがいを感じるポイントを知り、それを満たす方法を本人と一緒に考える必要がある。
3つ目は一人一人をよく見ること。
コロナ禍を経て、新入社員でさえリモートで仕事をするという状況が生まれ、この点で問題が生じた職場は少なくない。
営業成績のようなものであれば数値で結果が出るから分かりやすい。しかし、初めての仕事を覚える、長期的なゴールに向かって仕込みをする、といった努力は、見守ってくれる上司や先輩がいない中でモチベーションを保ち続けるのが難しい(だから、なんとか目に見える成果を作ろうと長時間労働に陥ってしまうリモートワーカーも少なくない)。逆に、誰かが見てくれていることが、「まだ結果は出ないけれど、引き続き頑張ろう」という気持ちの支えになる。
これはリモートワークをやめるべきだという話ではない。メンバーが日々何をしているのか、その先にどういう目標があるのかといったことを確認し、必要な支援を提供するためのコミュニケーションを小まめにする必要があるということだ。
以上、「静かな退職」という言葉が生まれた背景やその問題点、「静かな退職」を防ぐ方法について考察してきた。
ちなみに、個人の視点では、他に良い職場があれば「静かな退職」ではなく本当の退職をしてそちらに移るという選択肢もある。それでますます人手不足に陥らないためにも、企業は早めに手を打つべきだろう。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
Yahoo!ニュース エキスパート記事一覧はコチラ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング