マーケティング・シンカ論

『キャプテン翼』が連載終了 その功績と“機会損失”を振り返るエンタメ×ビジネスを科学する(4/5 ページ)

» 2024年04月25日 08時00分 公開
[滑健作ITmedia]

『キャプテン翼』の「機会損失」

 ローカライズについて特筆するべきはアラブ圏での放送である。放送された1988年当時は「Captain Majid」と名前を変え、舞台が日本からアラブ圏に変更された。以前の連載でも触れたが、多くの場合、アラブ圏での放送は文化・宗教の面から非常に難しいローカライズが求められる。しかし、こと『キャプテン翼』については現地でも自然に行われているサッカーがテーマであり、放送の大部分がサッカーの試合である。そのため文化・宗教面でのハレーションはほぼ生じず、アラブ圏で「安心して子供に見せられるコンテンツ」という、まれなポジションを獲得した。

 このように多くの国・地域で放送され、人気を博していた『キャプテン翼』だが、その収益を権利元である集英社をはじめとした日本企業が十分に獲得できていたわけではない。

 当然、海外の出版・放送関連企業は日本企業との契約の上で流通させていたはずだが、契約の履行管理や著作権の管理は困難を極めたと想定される。当時の環境では放送などの実態の把握が難しく、また契約順守意識の低さから、キャプテン翼に限らず多くの放送・出版コンテンツにおいて許可のない再販売や海賊版の流通が行われていた。もちろん、海外での著作権管理が難しかったことも原因の一つだろう。

当時、海外における海賊版や再販売の実態把握は難しかった(写真はイメージ)

 現在も世界中で『キャプテン翼』が人気を博し、多くの地域から視聴体験が寄せられていることから考えると、日本企業が十分な対価を得られたとは言いがたい。結果として、相当な機会損失が生じてしまったと考えられる。

 もちろん、これは過去の話であり現在は異なる。現在は、権利元もしくは権利を譲渡された日本企業が直接現地でビジネスを行う、あるいは国・地域での配信制御が可能な配信事業者と直接契約を行うなど、権利元に収益が入る環境が整っている。

 先に紹介したアラブ圏においても、紀伊國屋書店が企画し、アラビア語に翻訳された『キャプテン翼』の漫画単行本が正規ルートで流通しはじめている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.