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PBRをいかに高めるか レゾナック、NECの好例から探るROIC経営が企業を変える(3/3 ページ)

» 2024年05月24日 08時00分 公開
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 PERを高めようとした際のもう1つの壁は、非財務だけでなく、財務でさえも曖昧あいまいな成長投資効果しか示せていないことである。ESGや知的資本のような非財務価値の見える化では、元エーザイCFOの柳良平氏が考案した「柳モデル」が有名であり、近年はKDDIや日清食品など、それを採用してIRに生かす企業も増えてきた。

 しかしそもそも、財務面でも成長投資の事業貢献については解像度が低い。R&DやDX、M&A投資でどれだけの事業貢献を狙っているのかが外目からは見えにくいのだ。これが難しい一番の理由は、当然ながら、投資してからその効果が発現するまでには「時差」があるからである。加えて、「数字にコミットしたように見えて、実績が計画から逸れたときに説明しきれないから、投資効果の見通し、施策と成果目標のひも付けは対外的には見せたくない」という経営者の声はよく聞く。統合報告書でも、「財務情報」と「非財務情報」が両者の関連性なく並列で羅列されているだけ(「統合」されていない)、というケースも多い。

 これを突破するには、財務・非財務を統合した成長投資効果の見える化を早期に始めることが鍵である。過年度の相関を見るだけで「投資効果は証明できそうにない」「投資効果の見通しは出したくない」と諦める会社は多いが、投資効果の見える化はデータと分析の積み重ねが命なので、今すぐ始めねば、いつまでたってもできないことになる。試行錯誤を繰り返して投資効果の精度を高めていく努力は見せていくべきだ。仮に投資効果の見通しが外れたとしても、高リターンの投資には高リスクが付きものなのだから、それはそれで組織としての学習フィードバックに取り入れていけばよいのである。

 例えば、ソフトウェア品質保証のリーディングカンパニーであるSHIFTのIR資料は圧倒的な「解像度の高さ」で有名である。どのような施策を行った結果、どの指標がどう変わったのか(過去の説明)、今後、どの指標を伸ばすために、どのような施策を行っていくのか(未来の説明)、が詳らかになっており、「解像度の高い施策」と「定量的な成果」がセットで開示されている。見せ方を工夫するだけでなく、実態として日頃からかなり解像度の高い施策・KPI管理を行っていないとできない業である。

PBR向上プロジェクトに命を吹き込む経営者の覚悟

 以上のように、高PBR実現に向けたアプローチは大きく4つでまとめられる(図4)。ただし、それらの実効性を上げるためには、大前提として、CEOを要とし、CFOやCDO、CHRO、CTOなどのCxOが一枚岩で動かねばならない。

 事業の垣根を越えてリーダーシップを発揮し、どこにどれだけ投資するのかの議論を活性化し、各部署の活動がバラバラで独立したものでなく、目標の達成に向けて足並みをそろえた相互に補完し合う関係を開発するスタンスを貫く――。これを経営者は肝に銘じておくべきである。

(図4)高PBR実現に向けた課題と処方箋(まとめ)

 以上、これまで3回にわたって、なぜROIC経営が今まさに求められているのか、PBRが高いとはどういうことか、いかにPBRを高められるのかを説明してきたが、いずれも「言われてみれば当たり前」のことかもしれない。

 しかし、これらを実際にやり切れている企業は少ない。とかく「PBR向上に向けた課題はすでに認識しているのであとは粛々とやるだけ」という企業は多いが、ROICツリー上に論理的に整理されたアクションを粛々と潰し込むだけでROICが向上するなら苦労はない。期限を決めて、経営者の強い覚悟のもと、各社の重点課題に対して処方箋を集中的かつ抜本的に施さなければ、安々とPBRは向上するものではなく(投資家は見透かす)、今回の連載の内容が、皆さまに何らかの気付きを与え、日本企業のPBR向上に少しでも貢献できれば幸いである。

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