JRグループが発足して3年後の1990年5月24日、JR東海は品川駅構想の再起動を表明した。翌日の読売新聞朝刊によると、東京駅折り返しのままだと1時間当たり下り10本のダイヤが限界であり、品川駅設置によって同15本の運行が見込めるという。
同日の朝日新聞夕刊によると、新幹線通勤者が増えていることを受けて、東京〜静岡、東京〜三島をノンストップで結ぶ「通勤こだま」を朝夕に走らせたい、と報じていた。当時は1時間当たり下りひかり8本、こだま4本が最高だったというから、読売とは認識にズレがある。ちなみにWikipediaによるとひかり7本、こだま4本となっていた。
そして2階建て車両を4つもつないだ「グランドひかり」が運行開始。こだま号は全て16両編成に増強され、こだま号の指定席は4列シートへ改造された。
それはともかくこれを将来は下り15本、内訳としてひかり9本、こだま6本にしたい。そのためには品川駅を設置して、新たな終着駅としたいわけだ。
「通勤こだま」は東京(品川)〜静岡間を約1時間、東京(品川)〜三島間を約40分で結ぶ。ノンストップにするか、停車駅をつくっても熱海など最小限にするという。通勤こだまの設置によって、普通のこだまの混雑が緩和し、新幹線通勤が普及するという目論見だ。なかなか良いアイデアで、新幹線通勤者は今すぐにでもつくってほしい列車かもしれない。
ところで、なぜ品川駅ができると、最高下り12本のダイヤを15本にできるのか。これは線路の構造による。列車が折り返す時に運行本数のロスがあり、なおかつ回送列車があるからだ。
東京駅の東海道本線のプラットホームは3面あり、それぞれの両側に線路がある。つまり3面6線の容量だ。のりばは丸ノ内側から14〜19番線となる。東海道新幹線は複線で左側通行だ。上り列車が14番線に到着する場合は、17、18、19番線から下り列車が発車してもすれ違いが可能だ。15番線と16番線は上り列車に分岐器がふさがれてしまうから、上り列車が14番線に到着して停止するまで動けない。分岐器をふさがれたせいで他の列車が動けなくなる状態を「交差支障」という。
上り列車が19番線に到着する場合は、14〜18番線の全ての経路をふさぐため、下り列車5本が交差支障の影響を受ける。要するに、折り返し駅において、上り列車と下り列車のすれ違いがスムーズな場合と詰まる場合がある。東海道新幹線は25メートルの長さの電車が16両もつながっていて、それがゆっくり駅に進入するから、交差支障する時間が長い。これが読売新聞、朝日新聞、Wikipediaの下り本数の認識の差だ。下り10本が通常だけど、交差がスムーズであれば下り12本や13本で可能なときがある。
もうひとつは回送列車だ。東京駅で折り返す全ての列車が客を乗せる列車ではない。大井埠頭にある車両基地からやって来る車両があるし、大井埠頭に帰る車両もある。電車は朝に出庫したら夜まで走りっぱなしでいい、というわけにはいかない。クルマと同じように定期点検が必要で、一定の日数や走行距離で検査を実施する。だからあらかじめ点検期日を考慮して車両の運行予定がつくられている。なるべく交差支障がないように考慮されていると思うけれど、列車の本数が多く、走行距離が長いと回送列車も増える。
大井埠頭を発着する回送列車は、東京駅と品川駅の間、山手線でいうと田町駅の南にある分岐点を経由する。実は東京駅では下り15本の発車が可能だけれども、そのうち3〜5本は大井埠頭へ向かう回送列車だ。ということは、東海道新幹線は本来、下り15本で運行できるにもかかわらず、その枠を回送列車に取られてしまう。
そこで品川駅折り返し列車が重要になってくる。品川駅は田町付近の分岐点の南にあるから、東京駅で回送電車がつくった隙間を使って、品川発の列車を設定できる。混雑している東海道新幹線で、1時間当たり3本も増やせればもうかるわけだ。
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