佐久間俊一(さくま しゅんいち)
レノン株式会社 代表取締役 CEO
城北宣広株式会社(広告業)社外取締役
著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。
グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティングにて小売企業を担当するセクターのディレクターとして大手小売企業の制度改革、マーケティングシステム構築などDX領域のコンサルティングを多数経験。世界三大戦略コンサルファームとも言われている、ベイン・アンド・カンパニーにおいて2020年より小売業・消費財メーカー担当メンバーとして大手小売企業の戦略構築支援及びコロナ後の市場総括を手掛ける。2021年より上場会社インサイト(広告業)のCMO(Chief Marketing Officer)執行役員に就任。
2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。
2019年より1年半に渡って日経流通新聞にコーナーを持ち連載を担当するなど小売業には約20年間携わってきたことで高い専門性を有する。
日経MJフォーラム、KPMGフォーラムなど講演実績は累計100回以上。
2023年は物流費や原価の高騰により、値上げが相次ぎました。帝国データバンクの調査によると、2023年に値上げした品目数は3万2396品目にものぼるといいます。一方、2024年は2023年比で6割減のペースで推移していることもあり、値上げの傾向は一定の収まりを見せつつあります。
値上げ問題に注目が集まる以前から、小売業ではエリアや店舗による価格設定が課題となっていました。どの店も同じ品ぞろえや価格で提供するのではなく、店舗ごとの人口特性やニーズに応じて柔軟に設定することが必要ではないか、という議論です。
もちろん今までも店舗ごとに価格が異なることはありました。しかし、デジタル技術が発展して消費も多様化した昨今、論理的かつ柔軟な価格設定が求められるようになっています。業態別で価格差も大きく、どの店舗で購入するのが最も安いのか、企業もユーザーも明確に把握できていない部分があるのではないでしょうか。
まず、大阪と東京の店舗を例に、どのような現状となっているかを見てみましょう。次のグラフは、大阪府内の徒歩5分以内に隣接するスーパー・ドラッグストア・ホームセンター・コンビニの同一商品の価格を比較したものです。
わずか4商品を抽出して比較しただけでも、14〜37%の価格差が発生しています。知名度の高い大手メーカーのハンドソープについて、コンビニでは取り扱っている一方で、今回調査したスーパーマーケットでは取り扱いがありませんでした。このスーパーは目の前にホームセンターがあるため、日用品でホームセンターと勝負せず、食品で徹底的に差別化を図っていることからハンドソープを品ぞろえしていなかったと予想できます。
ユーザー目線では安いことがお得感につながるかもしれませんが、売り手側は全商品を安くすることは困難であり、戦略的な考えが必要になるのです。例えば、ペットフードでも、コンビニとホームセンターがともに取り扱っていますが、ホームセンターの方が品ぞろえは豊富です。そのため、競合する商品のみ低価格設定をし、他の商品では値下げをし過ぎず、全体の収益バランスを保持する――というのは考えやすい例です。
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