このようにトヨタ傘下のグループ企業2社における不正発生の実態を見るに、恐らく今回問題が発覚したトヨタ本体においても、同様の組織風土が不正の原因にかかわっていたであろうことは、容易に想像できるところです。筆者は、この悪しき組織風土を生み出す根底には、2つの要因があると見ています。
1つは、国内自動車業界全体にも大きな影響力を持つ、リーダー企業であるトヨタの業務管理における思いもよらぬ落とし穴です。そしてもう1つは、その管理下における日本的組織文化の付加作用ではないでしょうか。
それぞれを詳細に見ていきます。1つ目の要因として挙げたのは、カンバン方式やジャストインタイムに代表され、トヨタ生産方式とも呼ばれて世界に誇る、生産現場における効率経営です。詳細な説明は省きますが、一言で申し上げれば究極的に無駄を排した生産戦略であり、国内各社がこれに追随し効率化を競い合うことで、わが国の自動車産業を世界一に持ち上げた原動力ともなりました。
しかし、究極の生産効率化として向かうところ敵なしであったトヨタ方式が、いつしか行き過ぎの領域にまで及んでしまい、現場に対して無理強いにも近いプレッシャーをかけたのではないかと思うのです。そしてついには、利益優先を念頭に置いた効率化至上主義の下で、それに背くような弱音や拒否はタブー視されてしまった。現場は効率化目標を達成すべく、不正に手を染めていく――そんな構図が浮かび上がるのです。
もう1つの要因として、無理をも飲み込んでしまう組織風土醸成に輪をかけたものが、高度経済成長を支えた「昭和企業」に共通する日本的組織文化ではないでしょうか。世界各国でMBAグローバルスクールを運営する「INSEAD」のエリン・メイヤー教授は、自著『The Culture Map』で、各国の組織活動における文化特性を分析しています。それに従い「トップダウンか合意思考(コンセンサス重視)か」「階層主義か平等主義か」の2軸で、各国の組織文化特性をマトリクスに落とし込んだものが以下の図です。
日本は極端に「階層重視かつコンセンサス重視」という位置にプロットされています。メイヤー氏はこの状態で表される日本の組織文化特性について「含みのあるコミュニケーションを好み、意思決定はコンセンサスを重要視するにもかかわらず組織のヒエラルキーが強い」と指摘しているのです。言い換えれば、組織内のムードが、階層社会の力学を背景として、無言のうちに人の行動を支配する傾向が強い、とも表現できます。
なぜ「自動車不正」問題は起きたのか “どうでもいい仕事”があふれる残念な現実
「トヨタグループ」連続不正への提案 なぜアンドンを引けなかったのかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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