――そもそも、日本企業はなぜそんなにERPの大規模なカスタマイズを行うのでしょう?
廣原氏: 私はこれを、日本企業のERP導入に共通する問題と捉えています。日本の企業文化や商習慣には、欧米のERPパッケージがそのまま適用しづらい部分が多くあります。例えば、日本特有の「締め請求」という商習慣。これは、月末までの取引をまとめて、その取引量や内容に応じて請求額を決定するというもので、日本以外では存在しない商習慣なのです。こういった日本独自のビジネス要件に対応するために、パッケージをカスタマイズせざるを得ないというのが実情です。
――ERPパッケージをそのまま使うのではなく、自社の業務に合わせてカスタマイズするというのは、日本企業に多いのでしょうか。
廣原氏: 多いと思います。私の経験から言うと、日本でERPを導入している大企業の多くは、何らかの形でカスタマイズしています。本来であれば、日本特有の商習慣であったとしても、ERPパッケージ側がベストプラクティスの1つとして標準機能に取り込んでいくのが普通です。しかし先ほどお話した「締め請求」などは、明らかに非効率でERPの最大の特徴であるリアルタイム性を損なってしまう商習慣のため、なかなか標準機能に取り入れられづらいという背景もあるのではないかと思います。
――となると、日本の企業がERPパッケージを入れても、本来の目的である業務の標準化や効率化は達成できていないということでしょうか。
廣原氏: そういうことになります。パッケージをカスタマイズした瞬間に、ERPの基本コンセプトから外れてしまう。本来は標準機能に業務プロセスを合わせるべきなのに、先述したような事情で日本企業はどうしてもカスタマイズせざるを得ません。しかし、カスタマイズしてしまったことで、ERPのバージョンアップが難しくなるというジレンマがあるわけです。
――グローバル企業の日本子会社とかは、さすがにカスタマイズしないで使ってるんですよね?
廣原氏: いや、実はそうでもありません。グローバル企業の場合、海外の本社はカスタマイズせずにERPを使っていることも多いのですが、肝心の日本の子会社はカスタマイズしているケースもあります。
――でも日本の子会社って、本社の方針に従わないといけないんじゃないんですか?
廣原氏: 日本の文化や商習慣がグローバルスタンダードにフィットしにくいため、ERPをカスタマイズせざるを得ないケースが出てくるんです。そのカスタマイズしたシステムで日々の業務をこなしながら、月末や期末になると、わざわざ標準システムにデータを入れ直して本社に報告するという二度手間をやっているんですよ。
――なぜそんな非効率なことを?
廣原氏: 最終的には、グローバルで連結可能なデータを作らなければならないからです。ただ、日本での業務はカスタマイズをしないと回らない。だから、両方のシステムを並行して使っているという、ある意味非効率な状況が発生しているんです。
――それって、結局ERPを導入した意味がないですよね。
廣原氏: そういうことになります。本来、グローバル企業がERPを導入する大きな目的の一つは、世界中の拠点でシステムを統一して、情報の可視化や経営の効率化を図ることにあります。でも、日本だけが適応できなければ、ERP本来の目的が果たせません。日本の商習慣や企業文化が、グローバルスタンダードとなっているERPの考え方とどうしてもなじまないというのが、根本的な問題なのかもしれません。
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