先ほど述べたように、イノベーションのプロセスにおける失敗は、絶好の学びの機会となります。理論だけに頼っていては知り得ない新しい知見を得られるはずです。成功するイノベーターの多くが失敗を分析し、失敗から学び、その教訓を今後の取り組みに生かしています。つまり「賢く」失敗しているのです。
イノベーションを成功に導く「行動」「フィードバック」「学習」「改善」の継続的な過程を通じ、自らの業界や顧客ニーズ、市場の変化に対する理解を深めていけるのです。
失敗から学習することは、変化の著しいビジネス環境で長期的な成功を収めるための「レジリエンス」(回復力)と「アダプティビティ」(適応力)の醸成にもつながります。ここで言う学習とは、うまくいかなかったことを修正するだけでなく、「なぜうまくいかなかったのか」を理解することを意味します。そうすることで、より大きなイノベーションをもたらす能力を育て、将来の課題を予測、軽減できるようになるのです。
失敗を学びの源泉と捉えれば、企業はより強固で持続可能な進化を遂げられるのです。
しかし失敗は誰にとっても怖いものです。失敗に対する恐怖心は、イノベーションにとって大きな障害となります。なぜなら、失敗を悪と捉えることで、大胆な発想よりも安全や順応を優先する環境が生まれるからです。Miroが実施した調査では、経営幹部の62%が「恐怖心が企業におけるイノベーションの妨げになっている」と回答しています。
つまりイノベーションを起こすためには、従業員が恐怖心を感じない環境を整えることが大切です。失敗を当たり前のものとして扱い、失敗を学びのプロセスに不可欠な要素と見なすことで、リスクを取るための“安全な空間”が生まれます。
こうした視点の転換により、従業員は、失敗に対する罰を恐れることなく自身のコンフォートゾーン(心理的な安全領域)から一歩踏み出し、今までにないアイデアを探求できるようになるでしょう。
多くの優秀な人材は、クリエイティブな自由さと個人の成長を促す職場に魅力を感じています。社内に優秀な人材が増えることで、ダイナミックで革新的な組織となることは周知の事実です。積極的にリスクを取る文化は、優秀な人材を引きつけ、つなぎ留めるきっかけにもなるのです。
ここまでリスクを取る重要性について触れてきました。一方で、さまざまな数字や評価を気にしなければならないビジネスシーンにおいて、リスクを取ることは「時間の無駄」と感じた読者もいるでしょう。
しかし、リスクを取るための余白を確保することは戦略的な動きと言えます。短期的な不確実性を上回る“長期的な利益”につながります。計画的にリスクを取ることが推奨された環境であれば、従業員が会社を発展させる画期的なアイデアを思い付く可能性が高くなるでしょう。
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