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Visionalが事業を拡大する際に重視する「事業をつくる人材」CEOの意志(1/2 ページ)

» 2024年07月12日 08時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

連載:対談企画「CEOの意志」

 上場後のスタートアップの資金調達やIR支援を行うグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍するCEOに企業の成長の歴史や、CEOに求められることなどを聞く。

 今回はビズリーチなどを展開するVisionalの南壮一郎CEOと、Visionalのグループ企業アシュアードの大森厚志社長との鼎談を前後編でお伝えしている。

 前編ではVisionalが事業の複線化を進めてきた歴史と、新規事業の立ち上げを成功させる秘訣を聞いた。後編では、南CEOが経営人材を発掘し、育成する方法がどうだったのかを、大森社長が新卒の社員から経営者になるまでのプロセスから探る。

左からグロース・キャピタルの嶺井政人CEO、Visionalの南壮一郎CEO、Visionalのグループ企業でサイバーセキュリティ領域の事業を展開するアシュアードの大森厚志社長

新規事業はできるだけ口を出さずにサポートする

嶺井: 新規事業を立ち上げていく中では、大森社長のような経営人材の育成が重要であることは論をまたないと思います。南CEOは、経営人材の育成にどのように向き合っていますか。

南: できることはそんなになくて、機会をつくり、信頼する。以上です(笑)。

嶺井: まずは任せてみるということですか。

南: もちろん経営のサポートはします。けれども、基本的には自分で考えて、仲間と議論しながら行動して、失敗と成功を積み重ねていくことが大事です。私としては半歩下がった形で信頼して、応援する。それ以上でも、それ以下でもないんじゃないでしょうか。逆算したときに何が一番ハッピーなのかなということと、どうしたら大森さんが成功を実感できるのか。そのためのやり方を考えています。

嶺井: 経営について、口を出したくならないですか。

南: 会えば会うほど口を出したくなりますから、一番重要なことは近くにいないことだと思います。サイバーエージェントの藤田晋社長と10年くらい前に話をしたときに「とにかくビルを変えて、創業者が本社から出ていった方がいい」と言われました。

 だから、新規事業をつくる際には創業の経営陣は雑居ビルに移って、なるべく顔を合わせないようにしています。やることよりもやらないことの方が大事だと、藤田社長からのアドバイスを通じて自分自身が認識しました。

Visionalの南壮一郎CEO

新入社員による社長のかばん持ちを“直談判”

嶺井: 一方で、経営人材にはどんなことが求められると思いますか。

南: やりきる力じゃないですか。それと、素直さと頑固さの両方を併せ持っている人ですね。その点は見極めようとしています。

嶺井: 大森さんは新卒社員からグループ会社の社長になった初めての方です。どういうところを見極めたのでしょうか。

南: 現場での成果の出し方や行動の変異、それから社長室に異動した後は一緒に仕事をして、壁打ちをした過程からですね。大森さんは自分の意見を持っていました。

 Visionalでは若手社員が「社長のかばん持ち」をする制度があるのですが、これは入社間もない大森さんが直談判してきて導入したものです。社長が何をしているのか、どんな発言をしているのかを生で見たいと、大森さんがいきなり提案してきました。いい話だと思いましたけど、どうして提案しようと思った?

大森: もともと組織を見て、この組織がどういう方向に動いているのかを想像するのが好きでした。会社や事業の方向性については経営者が見ていますよね。自分がそこを見なくても日々頑張って仕事はできますが、見た方がもっとやるべきことが分かると思ったからです。

南: 大森さんが提案してきたことをきっかけに、今の新卒社員は私が取材を受けるときに同席してもらうほか、講演にも同行してもらっています。移動中に話ができるのもいいですね。

 自分自身も20代の頃に楽天にいたとき、三木谷浩史会長兼社長の出張にお供させていただいたほか、ミーティングに参加させていただきました。特に役割があったわけではないですけど、経営者が見ている景色を背中で見せてくれたのでしょう。それを自分から提案した大森さんは素晴らしいと思いました。

アシュアードの大森厚志社長

経営人材は社内外から探す

嶺井: 経営人材を採用する上で必要なのはどんなことでしょうか。

南: そもそも経営人材はそんなにいません。もともと素質を持っている人は、組織の中でも、採用市場でも数が少ないのがまず大前提です。かといって、勝手に育つものでもないので、探さなければいけません。経営者が自ら社内外から見つけて採りにいく必要があります。

 どのような人がいいのかはケースバイケースですね。面談をしながら主張があるところを見つけて、その主張と行動が伴っているのかどうかを見ています。仕事で自分が思ったことを意見として述べて、それを行動に移していたら、経営人材として育つ可能性があるのではないでしょうか。あとはやってみないと分かりません。

 嶺井さんと出会ったのも、経営人材探しの一環でしたよ。初めて会ったのはビズリーチを創業する前の2008年で、嶺井さんがまだ大学生のときでした。エンジニアが集まる勉強会でしたね。

嶺井: 私は学生起業をしていて、自分でプログラミングを書くこともあって、その勉強会に参加していました。ある日、普段見ない人が来ていて、それが南CEOでした。明らかに他の人とは違っていて、ちょっと浮いているなと思っていました(笑)。私は内定が決まっていたモルガン・スタンレー証券でインターンをしていたのでスーツを着ていたら、「君は何でスーツを着ているの」と声をかけられました。話してみると、実はモルガン・スタンレー証券の先輩でした(笑)。

 あのときの南CEOは起業する直前で、失礼ですけど何もなかった人でしたよね。転職者のためになる転職サイトを開設して、転職者からもお金をもらってビジネスをすると聞いて、そんなサービスは聞いたことがない。かなり難易度が高いと思ったのが第一印象でした。でも、あるべきサービスだし、そのために必要な行動を取っていらっしゃったので、応援したいと思いました。ビズリーチを立ち上げるときに大学の後輩のエンジニアを紹介したほか、広報担当に自分の幼なじみを紹介したり、いろんな応援をしたりしたのが懐かしいです。

南: 本当に行動力がすごくて、紹介してもらった上に、就職する1週間前にも会社に来てテレアポを手伝ってくれましたよね。ビズリーチの創業時に貢献してもらいました。お願いしたら行動してくれるのは、嶺井さんも事業をつくる人だからだと思います。もう20回くらい会社に誘っていますけど、断られていて(笑)。

嶺井: いやいや、ギャグっぽい勧誘しか受けていないですから(笑)。

南: 大森さんも嶺井さんと似ているところがあって、こうしたらいいんじゃないかと提案して、それを行動に移すことができます。批判は誰でもできますけど、行動に移すのは簡単ではありません。嶺井さんにも大森さんにも、事業をつくる片鱗(へんりん)がいろいろなところで見えました。そういうものが見えたら全力で誘いに行きますよね。

 だいたい言い出しっぺの人は、少しバランスが悪い場合が多いです(笑)。その人を支えて一緒に事業をつくっていく2人目や3人目のリーダーシップの方が重要で、経営者や創業者よりも、ある意味で再現性があるのかなと常日頃から思っています。

グロース・キャピタルの嶺井政人CEO
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