物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。
トヨタ生産方式から生まれた「7つのムダ」の中に「運搬のムダ」があることは、読者の皆さんはご存じかもしれない。「つくりすぎのムダ」「手待ちのムダ」「運搬のムダ」「加工そのもののムダ」「在庫のムダ」「動作のムダ」「不良をつくるムダ」の7つを指す。
工場において運搬はムダに他ならない。このムダを放置したままで工場の生産性向上はあり得ない。一方で、運搬を工場から撲滅したいと思ってはいても、なかなか実行できないと悩まれている方もいらっしゃるのではないだろうか。そこで少しでも運搬のムダをなくすためのヒントについて考えてみたい。
運搬はなぜ発生するのか。それは工程と工程が離れているからである。工程間を直結すれば解決することかもしれないが、言うは易し行うは難し。なぜか。それは第1に工場のレイアウトを変更できるタイミングが限られていることが挙げられる。
新製品を立ち上げるときに新たな生産工程を設置する場合がある。このようなタイミングはレイアウトを変更し、運搬をなくす絶好のタイミングである。しかし、この場合であっても運搬を減らせても完全になくすに至らないことがあり得る。
なぜなら新製品の全ての生産が新設されるとは限らないからである。現行ラインと新設ラインを併用する場合には、現行ラインの悪さはそのまま残ってしまうからだ。
第2に工場設計時に工程間運搬を考慮していないことが挙げられる。工場の技術担当者は該当工程における安全、品質、デリバリー、コスト(以下SQDC)の最適化を念頭に素晴らしい「ものづくり」が可能となる生産ラインを設計する。この思想に基づき技術担当者AさんはX工程を設計し、BさんはY工程を設計するとしよう。AさんもBさんも担当工程内の工法、品質、設備、作業者の動きなどについて徹底して検討し、予算内で最良の工程に仕上げることになる。
しかし、AさんとBさんが連携してお互いの工程を連結し運搬をなくそうという動きをすることは、あまりないかもしれない。
運搬が発生するか否かは、最初の工程設計にかかっている。この機を逃すと延々と運搬を発生させ続けることになる。運搬が発生しない、あるいは運搬が最少で済む真の工程設計を行うことを心がけたい。これを物流工程設計と呼ぶとするならば、その範囲は以下の通りとなる。
(1)工場全体レイアウト
工場の敷地全体のレイアウトを検討する。トラック台数に応じて決まる工場の出入口や工場内道路の検討、資材受け入れ場や倉庫の位置、面積などを決定する。このプロセスは主に工場建設時に実施する。
(2)工場内レイアウト
工場建屋内のレイアウトを検討する。この段階での検討ポイントは「物流を極力発生させない」である。このキーワードの意味するところは後述させていただく。
(3)物流設計
工程間運搬が発生した場合の「ものの運び方」、倉庫エリアの「ものの保管方法」、荷姿などの設計を実施する。倉庫エリアではものの置き方の基本となるロケーション設定までを実施する。
(4)物流標準設定
設計された物流を一定のSQDCを保って実施するための標準を設定する。この標準がその工場における物流標準となる。
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