守られない内部告発者 不正をもみ消す組織の元凶とは働き方の見取り図(2/3 ページ)

» 2024年07月22日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

告発者を守れない現行制度

 兵庫県の前局長による告発文は、メディアや県議会議員などに告発されて公になりました。つまり、最終手段であるステップ4だったことになります。ステップ4に至るまでに、告発者は2、3と順順に段階を踏む場合もありますが、それらを飛ばしていきなり4に至る場合もあります。誹謗中傷目的のケースもありますが、組織の自浄能力に疑念があり、もみ消しなどを回避するために外部に頼る、といったケースが考えられます。

 告発者が組織を大切に思い、自浄作用を働かせてほしいと願っても、自浄能力に疑念があれば内部への通報はためらわれます。告発した自分が処分を受けることになったり、組織に居づらくなったりすることも容易に想像できます。

 告発者からすると、自身が所属する組織が自浄能力を備えていると確信できる状態でない限り、組織外部に通報するか泣き寝入りするかの二者択一になりがちだということです。

 兵庫県では、内部告発した職員が降格や停職などの厳しい処分を受けました。告発の目的が誹謗中傷だと判断されたことになります。組織を正すために意を決して告発した結果が、処分だとしたら、告発した職員に絶望的な気持ちが生じたとしても不思議ではありません。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 告発者が報われなかった過去の悪しき事例に、旧ジャニーズ事務所の創設者ジャニー喜多川氏による性加害があります。ジャニー喜多川氏の性加害疑惑については1967年に裁判が行われ、1988年には元フォーリーブスの北公次氏による告発本が出版されました。

 しかし、これらの告発が報われることはなく、旧ジャニーズ事務所が性加害を認めたのは2023年のことです。被害者への補償を行っているSMILE-UP.の報告によると、補償受付窓口への申告者数は2024年7月16日時点で1001人に及びます。告発が黙殺され組織が自浄作用を働かせられなかった結果、数十年にわたり多数の被害者が生み出され続けるという事態が起きました。

 内部告発者に対する不利益な取り扱いを禁止した公益通報者保護法が2006年に施行されて、早18年が経ちます。しかしながら、通報された組織が通報者を解雇するなど不利益な扱いを行っても罰則は伴わず、それだけでは行政指導や処分の対象になりません。現時点では告発者はリスクを回避できておらず、公益通報者保護制度は十分に機能しているとは言い難い状況です。

 組織の自浄能力に疑問があれば、告発者としては外部に通報するしか手立てがありません。それが、外部に通報しても処分を受けるとなれば、玉砕覚悟でしか告発できないことになります。

 訴えられた側が訴えた者を処分できるという根本的な矛盾が生じている限り、公益通報者を守り自浄作用を働かせる仕組みは機能不全を起こすことが宿命付けられているのです。

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