一方で、内部告発によって明るみに出た不正が、これまでにもたくさんあります。最高裁判決にまでもつれ込むことになった精密機械メーカーの不正競争防止法違反をはじめ、福岡県で起きた日本郵政の不祥事、損保会社も巻き込んで世間を大いに騒がせたビッグモーター事件――など、内部告発を機に、組織に長く溜め込まれた膿(うみ)が吐き出され、大きな成果につながっています。
その始まりはステップ1、組織内部の者しか知りようのない不正を認知することです。基本的に組織内部で起きていることはブラックボックスであり、内部にいる人にしか認知できない不正は必ず存在しています。それらを正すには、公益通報者保護や自浄作用の働きを妨げる機能不全を解消しなければなりません。
機能不全を解消することができるのは、経営者や管理職といった組織運営の実権を握る人たちです。ところが、それら組織の支配者たちは、それまで培われてきた組織体制やシステムの中で競争を勝ち上がってきた勝者に他なりません。
告発された不正が組織体制やシステムなどと密接に絡んでいればいるほど、勝者たちにとって有利な環境を自ら崩すのはためらわれることでしょう。このメカニズムもまた、自浄作用が機能不全を起こす元凶です。
公益通報者を保護して自浄作用を促すには、組織の支配者による告発者への処分の健全性を第三者が判定し、不当な処分であることが確認された場合には具体的な罰則を設ける――といった踏み込んだ施策の検討が必要です。いまの法制度は、告発されたとしても組織に実質的なリスクがありません。
それでも、リスクを怖れずに組織内部から不正を告発する人が次々に現れています。告発者たちを突き動かしているのは、使命感や組織に対する強い思いです。
組織の支配者の中には「告発など握りつぶせばいい」と考える者たちがいます。そして実際に行える力があります。しかし、告発を握りつぶすだけで不正が正されなければ、組織の自浄能力に対する世の中の疑念は払拭されません。その疑念は、内部告発がきっかけで組織に刻まれた刀傷となって残り続けます。
人手不足が慢性化する中、組織の自浄能力に対する疑念は、働き手を確保する上でマイナスにしかならないはずです。それでも機能不全の宿命に抗うことなく、問題にフタをし続ける組織には、明るい未来など到底期待できないのではないでしょうか。
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