海外における二重価格は、世界的な文化遺産を守るために、一定以上の価格設定をしてオーバーツーリズムを防いだり、自国民の若者への教育啓もうのために学生を無料にしたりといった目的の他、外貨獲得などのために設定しているものがあります。導入目的はさまざまではありますが、世界ではある程度許容されており、日本がこれから各地で二重価格導入を進めていくこと自体は特に問題ないでしょう。
ここで重要なのは先述した通り、観光客や外国人価格が「標準価格」であり、自国民や地元民は「特別価格」という考え方です。しかし、やはり日本では、同じ商品・サービスなのに地元民か観光客かによって価格差があるというのは納得がいかないと感じる人も多いでしょう。訪日客価格が通常価格といわれても「もうかりそうだから、価格を高くしているだけでしょう」という批判も出てきそうです。
そのため、日本で二重価格を本格的に導入する場合には「日本ならでは」の制度設計にする必要があります。例えば「価格差を説明できるだけの価値付け」はその一つでしょう。
飲食店であれば、単なる価格差ではなく、訪日客には日本酒をオリジナルのマスでサービスして、記念品として渡すとか、城であれば入城記念に城の写真がついたポストカードを1枚プレゼントするなどが考えられます。日本ならではの「おもてなし」をカタチにしてみるのです。モノでなく、スタンプやハンコ、いわゆる「御朱印」のようなものでも構いません。
他の国であれば「これはツーリストプライスです」と説明するだけで良いかもしれませんが、やはり日本では日本ならではのおもてなし精神で訪日客を迎え入れるべきです。二重価格の場合は、その納得性を高めることがポイントでしょう。
日本政府は2030年に訪日客数6000万人、消費額15兆円という目標を掲げています。これからますます拡大するインバウンド消費に関して、各企業は二重価格を適切に活用して拡大する市場に対応していく必要があります。
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。直近では著書『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』を刊行した。
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