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「人手不足倒産」増える宅配 インターフォンと宅配ボックスつないで再配達ゼロに相棒は「テクノロジー」 人手不足でも“ラク”に働く(2/2 ページ)

» 2024年08月01日 10時40分 公開
[中西享ITmedia]
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インターフォンと宅配ボックスを連携

 そんな中、松井社長は再配達で困っている宅配業者のソリューションになるのではないかと、IPインターフォンと宅配ボックスをつなぐ必要性に気付いた。

 「最近は高級ブランドの靴をECショッピングで購入するなど、高価な品物をネットで購入する時代になってきました。マンションにある宅配ボックスにきちんと品物が届けられるシステムを作りたかったのです」

 行政の推奨もあって宅配ボックスの設置は増加しているものの、その効率的な利用という面では課題がある。この利用率を上げようと、居住者のスマホと宅配業者をつなぐ取り組みには多くの企業が注力している。DOORCOMでは宅配ボックスと自社のシステムを一気通貫で結ぶ効率的なシステムを開発した。

 このシステムは、マンションの住人であればスマホにアプリやLINEの公式アカウントに登録するだけで簡単に利用できるようにしている。配達業者がボックスに荷物を入れると住人に通知が届く。荷物の取り出しが完了した際にも通知が入る。ボックスに荷物が届いている時、帰宅時にマンションの玄関で認証をした際に、玄関の画面に通知が表示される。

 こうすることにより、送り先の住人に確実に荷物が届けられて、不在表を届けて再配達になる可能性がゼロになるのだ。置き配のように荷物が他人に見られることもないので、安心感が高いという。

DOORCOMでは宅配ボックスと自社のシステムを一気通貫で結ぶ効率的なシステムを開発した

宅配ボックスの“事前占拠”はびこる グレーゾーンの争奪戦

 マンションの戸数に対して宅配ボックスの数が足りていないため、いま多くのマンションで起きているのが、宅配業者による宅配ボックスの“奪い合い”だという。実際に東京都中央区のマンションの住民は「ある宅配業者は、配達する前に許可なくカラの宅配ボックスを確保しようとして、複数の空きボックスを“事前占拠”していた」と話す。

 松井社長は「DOORCOMのシステムでは、箱の中にセンサーを内蔵しているため、荷物が入っていない状態ではボックスを確保できない仕組みになっています。こうした悪用を防ぐことができます」と説明する。

 今後の展開について松井社長は「IPインターフォンと宅配ボックスをつなぐことにより、インターフォンとボックスの価格をこれまでのものより3割程度安くできます。宅配業者だけでなくマンション住民の利便性、セキュリティの向上にもつながるので、全国のマンションに3年で3000棟ほど導入したい。各住戸専用の宅配ボックスを設置することも検討しています」と意欲的だ。

自治体が宅配ボックスを推奨

 東京都江東区は1月、全国で初めて3階建て以上の新築マンション(10戸以上)に宅配ボックスの設置を義務づける条例(住戸数の1割以上)を制定した。宅配ボックスを設けることは、宅配車の駐車時間が減って道路の混雑解消などにもつながるとしている。

 篠原徹江東区住宅課長は「条例を設けたきっかけは、コロナ禍での接触機会の減少と、配達車のCO2削減です。『2024年問題』ではなかったのですが、施行してみると1割以上ボックスを作るケースが多く、住民からは好意的に受け止めていただいています」と話す。このほか川口市も新築ワンルームマンションに宅配ボックスの設置を義務付けている。

 国交省は宅配ボックスの設置を促すため、設置には補助をする政策を展開。これを受けて都内の板橋、荒川、渋谷、大田、足立、葛飾の6区で宅配ボックス設置を助成する制度を開始した。板橋区では2022年9月に、戸建てや集合住宅向けに宅配ボックスの値段と設置工事費用の半分を助成する(戸建ての場合は最大5万円、集合住宅の場合は最大15万円)。ただし、居住者らのスマホに荷物の到着を通知するなどIoTに対応した場合は3分の2(戸建てや事業所は上限15万円、集合住宅は25万円)までに引き上げた。2024年は過去2年と同様、応募期間終了前に予算が上限に達して締め切ったという。

宅配ボックスに荷物を入れる宅配業者=都内渋谷区のマンション(筆者撮影)

業界の垣根を超える

 インターフォン業界は、パナソニックとアイホンによる商品が市場を寡占している状況だ。現状はアナログ式が多いという。一方、宅配ボックスのメーカーは、フルタイムシステムと日本宅配サービスの2社が多数を占めている。

 宅配ボックスには機械式と、ネットワークでつなげる電気式がある。機械式の方が安いため、大半は機械式が設置されている。松井社長は「機械式はマンションの住人でなくても使えますが、電気式は部屋とひもづいているため住人でないと使えません」と話し、同社は電気式でインターフォンとつなぐシステムにしている。

 これまでインターフォンのメーカーは、インターフォンだけを販売し、宅配ボックスは箱だけを売ってきた。そのため、両方が連携することはなく、結果的にマンション居住者の利便性の向上につながる宅配サービスは生まれてこなかった背景がある。インターフォンと宅配ボックスをつないで、セキュリティを確保した仕組みを作ろうとする企業がなぜ現れなかったのか。

 日本独特の縦割りシステムの限界がここにもあり、インターフォンと宅配ボックスの垣根を越えられなかったのだ。それを越える仕組みを編み出したのは、業界にとらわれないDOORCOMならではのアイデアだった。

 松井社長によると「宅配業者からは『このシステムを使ってみたい』という声が多く寄せられているそうで、宅配業者も再配達を効率化できるこのシステムに強い関心を持ち始めているようだ」と指摘する。

 年商3億円、従業員10人の小さな企業から、こうした難題の解決につながるサービスが生まれるのは、応援したくなる。業界の垣根にこだわってきたインターフォンと宅配ボックス業界は、こうした新しいアイデアを参考にして、より便利で効率的なシステムを開発して、宅配業界の人手不足の解消に貢献してもらいたい。

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