経理人材の人手不足が深刻化している。日商簿記の受験者・合格者は、この15年で大きく減った。経理の実務を担う専門人材が採用できない、育たないという声は、上場企業でも税理士法人でも後を絶たない。
日本商工会議所が公表している簿記検定データによると、実務レベルとされる2級の実受験者は2010年度から2025年度にかけて約22%減った。より上級の1級は約38%減だ(※)。
※参照:日本商工会議所「受験者データ」(2002年度〜2025年度の公式公表値)
デロイト トーマツの調査では、経理・財務・税務部門の35.7%が「人材育成・人材確保」に課題を感じているという結果が出ており、企業の現場でも人材不足が問題視されている様子がうかがえる(※)。
※参照:デロイト トーマツ「2025年度版 経理・財務・税務部門の課題調査」
経理人材の確保が難しくなる中、非財務情報の開示やサステナビリティへの対応など、経理部門に求められる役割は広がり続けている。そうした課題への対応策として注目されているのがAI活用だ。
とはいえ、経理は数字を1円たりとも間違えられない領域でもある。だからこそ、入力や確認の作業は、専門性を持った人の手で慎重に実施すべきとされてきた。
その「人にしかできない」とされた経理判断にいち早く踏み込んだ企業が、味の素グループの財務・経理業務を担う味の素フィナンシャル・ソリューションズ(以下、AFS)だ。
経理に特化したAIを手掛けるファーストアカウンティングと「経理AIエージェント」を共同開発し「経費精算の経理承認業務」をAIに委ね始めている。
人手不足のため効率化を進めたい、しかし間違いが許されない領域で従来の方法を変えるのは不安――、そんな葛藤がある領域で、味の素グループはどのように挑戦に踏み切ったのか。
2社が共同開発した経理AIエージェントは、経費精算の承認業務を担うものだ。
経費精算の承認は、金額の照合だけでは終わらない。会計ルールや出張旅費規定を始めとする社内規定などと照らし合わせ、申請が正しいかを判断する必要がある。従来の定型作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)や一般的なLLM(大規模言語モデル)には、判断を任せることができなかった。
勘定科目に複数の正解がある点が、判断の難易度を高めている。例えば、ペットボトルの水1本を経費で購入した場合でも、会議費、消耗品費、雑費など、どれを選ぶかは利用目的や会社ごとの判断によって変わる。そのため、自動化するとなったら、汎用的な会計ルールだけではなく、各社の社内規定まで学ばせる必要がある。
開発した経理AIエージェントはこうした課題に対応し、従来、人の手で実施してきた経費精算の承認業務について、AIがシステムへのログインから申請内容の確認、承認・差し戻しの判断までを自律的に実施する。
実際に、AFS社内では2月からこのAIエージェントの活用を開始しており、徐々に適用範囲を広げている。
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