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「日本の味」を捨てたから世界で勝てた――味の素、海外売上比率6割を支える“徹底ローカライズ”の正体(1/2 ページ)

» 2026年06月08日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

 甘味、塩味、酸味、苦味とは別の何かがあるのではないか――1908年、昆布だしを研究していた東京帝国大学の池田菊苗博士が“第五の基本味”となる「うま味」を発見した。翌年、世界初のうま味調味料が誕生する。「味の素」だ。

 うま味は世界に広がり、今では「UMAMI」として定着している。同調味料の名を社名に冠する味の素グループ(以下、味の素)は、売上高約1兆5800億円に成長。事業利益における海外比率は約60%に上る。中でもアジア圏の売り上げが多く、全体の約40%を占める。

 しかし、この成功は一朝一夕で達成できたわけではない。「うま味」という味覚は万国共通でも「おいしさ」は各国バラバラ――。そこで味の素は「徹底的なローカライズ」を掲げ、進出先で強いブランドを確立してきた。

 同社は、ローカライズ戦略をどのように実践しているのか。味の素の中村茂雄代表執行役社長 最高経営責任者が海外戦略について語った。

photo 味の素の中村茂雄社長(編集部撮影)

本記事は、PR戦略の策定支援を手掛ける本田事務所(東京都港区)が主催したビジネスカンファレンス「Asia Insight 2026」(6月1日開催)に登壇した、味の素の中村茂雄社長による講演「経営戦略としてのコーポレートブランディング:グローバルで目指す企業価値の向上」を取材したもの。

「日本の味」を捨てたから世界で勝てた 味の素、“徹底ローカライズ”の正体

 企業が商品やサービスを海外展開する際、日本での成功体験をそのまま実行してもうまくいくとは限らない。文化や価値観、商習慣などが日本とは異なるためだ。

 「私たち日本人が感じる『おいしさ』を押し付けるのではなく、相手が感じる『おいしさ』を見つけて、それを再現する調味料を開発する」――中村社長は同社がグローバル展開の際に心掛ける「おいしさのローカライズ」という考え方をこう紹介する。

 タイで好まれる味とベトナムで好まれる味は違う。フィリピンと日本でも食文化は異なる。味の素は、日本で“当たった商品”をそのまま海外へ持ち込むのではなく、その国の人々が日常的に食べている料理を調べることから始める。

 社員が現地の家庭に入り込み、どのような食材が使われ、どのように調理しているのかを観察する。食卓を知ることで、その国ならではの「おいしさ」を理解し、商品開発に生かす。

 こうして誕生した、その国の「味」に合わせた調味料商品は各国で高い支持を獲得。同社によると、各国の調味料市場におけるシェアはタイで約80%、ブラジルで約70%、インドネシアで約50%を占めるという。

photo 味の素がアジア各国で展開している商品の例(資料提供:味の素、本田事務所)

事業利益の4割をたたき出すアジア事業の「三現主義」

 味の素は、世界31の国・地域において121の拠点で事業を展開している。同社の海外展開は今に始まったものではなく、1909年の創業から8年後の1917年には米国ニューヨークに事務所を開設。1950〜1980年代にかけてフィリピン、ブラジル、タイ、マレーシア、インドネシア、ペルー、中国、ベトナムへと進出し、2010年代以降は北米、欧州へと積極的に展開している。

 同社が掲げる「徹底的なローカライズ」は100年以上に及ぶ歴史の中で培われてきた。中村社長は「製品をただ輸出する、工場を建てるだけではここまで来られなかった」と振り返る。

 こうしたローカライズを実践する上で、同社は「三現主義」という3つの考え方を重視している。

  1. 現地スタッフが市場に足を運ぶ
  2. 現金で取引する
  3. 現物を販売する

 「日本人の駐在員が出張で市場(いちば)に出向くのではなく、その土地で生まれ育った人が毎日自分の足で向かう。現地・現金・現物という『3つの現』を実践することで、現地とダイレクトに信頼関係を築いてきた」(中村社長)

 市場を日々歩き、現地の販売店と会話し、消費者の変化を肌で感じる。その積み重ねを商品開発や販売戦略に反映する。

 フィリピンを起点に始まった三現主義の考え方は、現在ではアジア全域で共有される事業運営の基本原則になっているという。

photo 味の素の社員が三現主義を実践している(資料提供:味の素、本田事務所)
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