三現主義に基づいた味の素のローカライズは、商品開発にとどまらない。「社会制度のローカライズ」にも注力している。その一環として、ベトナムでは2012年から子どもの栄養改善に取り組むプロジェクトを進めている。
当時のベトナムでは、農村部で子どもたちの低身長・低体重、都市部で脂質偏重・肥満が課題となっていた。一方で、学校給食制度や栄養士制度は十分に整備されていなかった。
「この状況をどうにかしたい」と声を上げたのが、ベトナム味の素社で働く現地社員たちだったという。同じ環境で育った社員たちが発案したのは、日本の学校給食制度をベトナムに導入するというものだった。
地元の行政機関と連携し、ホーチミン市の1校にモデルキッチンを設置。そこで同社が提案したメニューの給食を作り、子どもたちに提供した。教育関係者らが同校を視察することで、モデルキッチンの採用校を少しずつ増やしていった。
現在、この取り組みは62自治体、4367校に広がっている。2017年にはベトナム初となる栄養士43人の育成にもつながった。
このプロジェクトでは、給食の調理現場で味の素の商品を使っている。同社の商品で作った給食を食べて育った子どもたちが、将来家庭を持った際に同社の商品を選んでくれる可能性も広がる。
採算度外視で始まったというプロジェクトが、今ではビジネスに貢献していると中村社長は話す。
味の素のローカライズ戦略はこれだけにとどまらない。中村社長は「サプライチェーンにおけるローカライズ」の事例として、タイでの農家支援の取り組みについても言及する。
うま味調味料の味の素は、植物の糖分を原料にしている。各国で入手しやすい植物を採用しており、日本ではサトウキビなどを用いるが、タイでは「キャッサバ」を原料としている。タピオカの原料としても知られる芋の一種だ。
タイ味の素社は、国内で生産されるキャッサバ全体の15〜20%を調達しており、生産農家との関係が深い。その農家を近年悩ませていたのが「キャッサバモザイク病」だった。
感染すると葉に白いモザイク状の斑点ができ、最終的には枯れてしまうウイルス病だ。収穫量が大きく落ち込み、農家の収入減につながる。中村社長は「原料の確保以前に、農家の方々の生活そのものが揺らぐ問題だった」と振り返る。
そこで同社は2020年から、政府や大学、研究機関と連携して「Thai Farmer Better Life Partner」(タイ農家のより良い生活パートナー)プロジェクトを開始。4つの取り組みを主軸に据えた。
同プロジェクトには、5年間で約4000の農家がトライアルに参加。8000人が教育プログラムを受講した。キャッサバの収穫量は平均30%以上向上し、1ヘクタール当たりの収入も日本円で約6万円増加したという。
商品開発、栄養改善、農業支援。一見それぞれは異なる取り組みに見えるが、根底には「まず現地を知ること」という同社の価値観が反映されている。
三現主義を軸とする徹底したローカライズを実現するために、現場から学び続ける。その積み重ねが、味の素が100年以上にわたり海外で事業を拡大してきた原動力といえそうだ。
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