観光庁が発表する統計資料では、訪日客数、消費額、国別の動向などについてかなり細かいデータが集計されている。これによると、インバウンド需要の動きはおおむねイメージ通りの推移で拡大してきたことが分かる(図表1)。
2019年まで訪日客数も消費額(旅費、飲食費、買い物など全ての合計)も増加してきたが、2020〜2022年までコロナ禍によって一時ほぼ消滅。その後、5類移行によって2023年の消費額はコロナ前を超えた。2024年は上期の状態が持続すると想定すれば、訪日客数、消費額ともに過去最高を更新することがほぼ確実な状況にある。訪日客数が増えているだけではなく、一人当たりの消費額もコロナ前を大幅に上回っており、ありがたいお客さまなのである。
国別でみると、かつて爆買いと言われた中国への依存度は低下した。コロナ前は中国36.7%、台湾11.2%、韓国9.7%だったが、中国20.7%、米国13.0%、台湾12.4%、韓国10.4%となり、アジア諸国、豪州、欧州各国に分散している。
お金の使い方も変化した。コロナ前は中国人の爆買い頼みだったが、現在は宿泊費、娯楽などサービス費へと比重が移っている。中国以外の多様な国からの来日が増えてきたことで、インバウンド消費の対象がモノからサービスへ変化しているのだ(図表2)。とはいえ、全体の消費額が大きくなっていることから買い物需要も拡大していて、百貨店などは大きな恩恵を受けている。
図表3は百貨店販売額と百貨店免税売上の推移を示したものだ。売り上げが伸び悩む百貨店業界にとって、インバウンドは富裕層取引と並ぶ成長部門とされているが、その存在感が大きくなってきたことはデータでも明らかだ。コロナ前でも売り上げの5%超に達していたが、2023年にはその水準を回復。2024年上半期では10%超にまで拡大している。百貨店業界にとってインバウンドは、まさに救世主ともいうべき重要な位置付けとなったのである。
ただインバウンドの恩恵は大都市に偏っており、地方や郊外の店舗には及んでいない。日本百貨店協会が発表した2024年3〜5月の百貨店免税売上は約1814億円だが、うち三越伊勢丹、高島屋、Jフロント、H2Oからなる大手百貨店の免税売上は合計が1416億円ほどで、約8割を占めている。他にも松屋銀座の免税売上が推定150億円以上あることを加味すれば、インバウンドの大半が大手百貨店の大都市基幹店にとっての限定的な追い風だということは留意すべきだろう。
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