百貨店大手もこの点は十分に認識済みであり、各社ともインバウンドの取り込みは怠らないものの、「一過性のものとして、安定的な売り上げ、収益基盤の強化に努める」と述べている。富裕層とインバウンドへの依存を強め、大衆離れを止められてはいない百貨店にとって、インバウンド沈静化後に富裕層一本足で戦略が組めるかどうか、考えておく必要がある。
さて、インバウンドの恩恵を受けている代表として百貨店を見てきたが、実は2023年度に、大手百貨店よりインバウンド需要を取り込んだ小売企業があることをご存じであろうか。ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナル(PPIH)だ。
同社が先ごろ発表した2024年6月決算は、35期連続増収増益を達成、売り上げはセブン&アイ、イオン、ファストリ、ヤマダHDに次いで、5番目の2兆円越えを実現した。その中で、インバウンド売上が1175億円となり、百貨店を抑えて国内トップクラスとなったことも示された(図表5)。
ドン・キホーテは、訪日客のデスティネーションの1つとなっており、その独特の空間を楽しむとともに、安価な土産品を買う場としても定着しつつあるという。百貨店のように高額品ばかりに依存せず、インバウンド客に広く侵透しているドンキは、円安一巡後でも大きな落ち込みとはならないであろう。さすが2兆円企業になるだけある、と感心するばかりだ。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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