兼村さんはスーパーポイントスクリーン内での新しい広告ソリューションとして、位置情報とポイントを生かした施策を打ち出し、2019年に楽天賞を獲得するが、この時のヒントになったのが営業同行だった。実際にクライアントと話す中で「顧客の抱える課題から、位置情報を活用した施策にニーズを感じた」という。
当時、店舗を持つ多くの企業が「来店促進施策を展開しているが、実際それによって消費者が来店したのか、商品を購入したのかをトラッキングできていない」という課題を抱えていた。この課題を解消するために、営業やエンジニアたちと連携して作成したのが「O2Oの広告ソリューション」である。楽天ポイントをフックにした送客と顧客行動の可視化によって、位置情報を活用した来店促進の効果と顧客分析までが可能になった。
「これまで現場の肌感でしか把握できなかった来店状況をデータで追跡し、どんな人が何人来たのかといった情報を可視化できたことがクライアントに強く響きました」
新しいシステムをゼロから制作するにあたり、営業担当と密に連携した。代理店やクライアントの元へと何度も足を運び、「どういった設計が必要か?」「提案の可能性はあるのか?」などの話し合いを重ねた。また「データをトラッキングし、評価することはそもそも可能なのか?」など、広告ソリューションとしての実現性についてもエンジニアと協議を重ね、数カ月単位で提案から実行までを行った。
「エンジニアチームと膨大な位置情報のビッグデータ活用に向けたデータ抽出や分析の仕組み化など、テクニカルな話を詰めていきました。その他、見積作成やレポート作成に向けて、アプリデータの理解と抽出言語を自ら学習し、クエリの作成やデータサイエンティストとの連携にも取り組みました。ゼロから立ち上げたり、学んだりするのは確かに大変でしたが、これまでにないものをつくることは非常に楽しかったです」
エンジニアチームには外国籍のメンバーも多数在籍している。兼村さんの英語力によって事業部内でのスムーズな連携が実現したようだ。
結果、兼村さんたちが考案したO2Oの広告ソリューションを含めた外部広告売上額は、2019年度に前年比200%超えを達成した。楽天グループは、楽天市場がスーパーポイントスクリーンに広告を掲出するといった相互送客施策を展開することもあるが、今回の売り上げは楽天グループ外のクライアントからの広告出稿が対象。外部クライアント売り上げのみで前年比を大きく上回った成果が評価され、兼村さんは2019年の楽天賞MVPを獲得する。
【訂正:2024年9月3日午後4時27分 初出で「O2Oの広告ソリューションによる売り上げ」と記載しておりましたが、「O2Oの広告ソリューションを含めた外部広告売上額」に訂正いたします。】
楽天賞は月に1度、会社に貢献した社員を表彰する報奨制度である。楽天グループが事業を通じて実現しようとしている価値観や成功コンセプトである「楽天主義」を体現したチームや個人に贈られる。兼村さんは、この受賞が大きな成功体験になったと話す。
「クライアントの課題を踏まえ、これまでにないものをつくり、実行する。このベーシックな成功体験を入社間もない時期に経験できたこと、そしてこの時の学びが今の仕事にも生かされています」
楽天のさまざまなアセットを使い、広告を運用することに興味があった兼村さんは、ジョブローテーションの一環として、2020年7月に広告営業へと異動した。
そして、2023年1月からは楽天市場を軸としたプラットフォームで活動する「アカウントイノベーションオフィス」に所属している。同部署はナショナルクライアントの販売促進に向けて、楽天市場における販売支援といった店舗コンサルティング、楽天市場におけるブランド認知や告知などを担う。兼村さんはこの部署で、家電業界を中心に担当する。
入社から約6年が経過し、着実に営業としてのキャリアを重ねているが、「EC店舗のコンサルとしてはまだ1年半ほどなので、さまざまなことを吸収し、お客さまへの提案に生かしていきたい」と兼村さんは意欲を見せる。
「わたしの強みはデータを軸とした提案ができることです。これまで関わってきたサービスのさまざまなデータを分析してきた経験が基になっています。店舗コンサルとして、クライアントへの提案はもちろん、売り上げに苦戦している店舗や新たな施策を試みたい店舗に対しても向き合い、引き続き解決に貢献できればと思います」
現在、家電業界はコロナ禍の巣ごもり需要で盛り上がった市場が落ち着きを見せ始め、各メーカーも苦戦しているという。「売り上げ低下の理由が分からず、頭を抱えられているクライアントも少なくはありません」と兼村さんは話す。
「特に家電は購入までのリードタイムが長く、ステップも多いため、マーケティングと販促支援が非常に重要です。例えば、新商品が出たタイミングでは、楽天市場内でのブランド認知をさらに強化するために、商品発売に合わせたイベントの開催を提案しています。クライアントの商品がしっかりと売れるよう、楽天市場の強みを生かしたイベントやポイント施策を提案し、ご支援していきます」
楽天市場から得られるあらゆるデータを活用し、施策を提案し続けられるのも、データと向き合い続けてきた彼ならではだろう。
兼村さんは仕事への向き合い方についてこう話す。
「目の前のクライアントに向き合い、とことんやっていくという姿勢は、どこの部署で働いていても新卒1年目から変わりません。仕事柄、施策を進める上で社内とのコミュニケーションは不可欠です。社内外問わず、どの点を解決すれば満足度が向上するかを常に意識し、引き続き取り組んでいきたいと思います」
強みであるデータ活用と顧客に向き合う姿勢で常に道を切り開いてきた兼村さん。顧客のために行動し続けられる彼なら、きっとこれからも、多くのクライアントの悩みに向き合い、一つずつ成果へと結びつけていくに違いない。
日立の29歳エース社員が考える「製造業の未来」 タイ赴任で見えた、自身の役割とは
富士通の27歳エース社員、1年目で花形部署に異例のヘッドハント 信条は「3カ月で成果出す」
「裸の王様だった」 サイバーエージェント新卒社長は挫折から何を学んだのか
人材大手の内定辞退し、カレー店運営ベンチャーに入社 COOの離職で一皮むけた26歳のキャリアCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング