新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが2類から5類となってから1年が経過した。5類化に伴い、政府の方針は「法律に基づき行政がさまざまな要請・関与をしていく仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の自主的な取組をベースとした対応」に変わった。
コロナ禍においてライブ・エンターテインメント市場は壊滅的な影響を受け、数多くの音楽フェスが中止や規模を縮小して開催されていた。最新のぴあ総研の調査によると、2023年の市場規模は、対前年増減率21.3%増の6857億円となり、コロナ禍前の2019年の水準を上回り(対2019年増減率では8.9%増)過去最高となっている。
そんな中、9月14〜16日の3日間にわたり、230組のアイドルグループが出演する日本有数のポップカルチャーフェス「@ JAM EXPO(アットジャムエキスポ)」が横浜アリーナで開催される。
2014年にスタートし、2020年のオンライン開催を除くと、今年が10周年記念の開催だ。テーマには「原点回帰」と「新たな挑戦」を掲げる。同フェスの総合プロデューサーを務めるソニー・ミュージックエンタテインメント/ライブエグザムの橋元恵一さんに、コロナ禍明けのライブ・エンターテインメントの実情や最近の変化、@JAM EXPO開催の裏側を聞いた。
2024年のライブ・エンターテインメント市場は、パンデミックを乗り越え、再び大規模なイベントやフェスが活況を取り戻している。観客動員数はコロナ禍以前の水準を超え、特に若年層の参加が増えているようだ。一方、ジャンルによっては観客の高齢化も進む。これに対応するため、異なる年齢層に向けた新しい企画やイベント形式が求められている。
2024年のフェスでは、ジャンルを超えた柔軟な構成が主流となっており、従来の「ロックフェス」や「アイドルフェス」といった明確な分類分けはしづらく、曖昧だ。多様な音楽スタイルが共存する新たなフェス文化が形成されつつある。
例えば「SUMMER SONIC」では、ロックやポップスに加え、K-POPやEDMなどの新興ジャンルのアーティストを積極的に採用した。K-POPを好む若年層を含めて幅広い世代の観客を引きつけている。かつてはロック中心だった「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」も、今回はアイドルやJ-POPのアーティストも起用した。一方「FUJI ROCK FESTIVAL」は、依然として伝統的なロックフェスの姿勢を守り、新しい音楽スタイルの採用には慎重だ。
このようなフェス市場の多様化の中で、@JAM EXPOはアイドルシーンにおけるプラットフォームの役割を担う。3日間で230組ものアイドルグループが参加する、業界にとっては重要なイベントのひとつだ。
橋元氏によると、ライブの観客数はコロナ前の水準に戻り、多くのファンが再びライブの現場に足を運んでいるという。一方、運営面では新たな課題も浮上した。それは、制作コストの大幅な増加だ。特に人件費が大幅に上昇しており、今年の@JAM EXPOでは「アルバイトだけでも5000万円以上の人件費がかかる」と話す。これがイベント全体の運営に影響を与えている状況だ。
一般的なイベントでは、チケット完売額の70〜80%程度を損益分岐点としており、こうしたコスト増加に対応するため、@JAM EXPOでも全体の価格調整をしているという。特にVIPチケットは、イベント運営の重要な収入源であり、収益を確保するための手段だ。VIP S席(3日券 13万7000円)、VIP席(3日券 12万6000円)など特に熱心なファン層からのサポートを引き出している。ファンの一人ひとりの価値を最大限に引き出し、収益の安定化を図るのが狙いだ。
ここで重要となるのがファンマーケティングである。ファンマーケティングとは、ファンとの深い関係を築き、ブランドやイベントに対するロイヤルティーを高めることで、長期的な支援を引き出す戦略だ。VIPチケットの設定や特典の充実は、ファンに特別な体験を提供することによって、リピーターとなるファンを増やし、LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を向上させることを目指す。
@JAM EXPOの収益構造は、チケット収入と協賛収入によって成り立っている。橋元氏によれば、収益の比率はチケット収入が約8割、協賛収入が約2割だという。協賛企業の支援はイベント運営を支える重要な要素であり、今回は第一興商やUP-T(運営元:丸井織物)などが協賛として参加した。これらの企業は、チケット販売やグッズ制作の面でも協力していて、イベント全体の運営に貢献している。協賛企業のサポートを活用しながら、収益の多様化を図ることで、イベントの運営を安定させ、さらなる成長を目指す構えだ。
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