前回は、米国の成長企業を支えるRevOpsを先進的に導入してるNTTデータとLINEの事例を取り上げ、日本国内におけるRevOpsの実績と今後の展望について解説しました。
第4回となる今回は「RevOpsですらAIによって代替され得るのか」というテーマについて、視野を少し未来にまで広げて、AIの加速度的な進化によってもたらされるRevOpsへの影響について、グーグルジャパンで営業統括部長、freeeで営業統括役員を歴任し、現在はMagic Momentの代表を務める村尾祐弥が考察します。
第1回、第2回では、RevOpsは専門家がかなりの労力とコストを掛けて設計し、組織へ実装するため、現段階ではかなりハードルが高いことを解説してきました。また、RevOpsが依然として浸透していない日本ではRevOpsを統括する専門家の採用に苦戦するため、正直気が遠くなるプロセスだと感じる方も多いと思います。
しかし、第3回のNTTデータ、NTTデータ・スマートソーシング、当社Magic Moment の3社共同の委託型のRevOpsのPoCについてご紹介したように、BPOやBPaaSといった委託サービスの組み合わせ次第では、内製化することなく、既存のリソースでRevOpsを実装できることをご説明しました。ここで解説したのは、多大なリソースが必要なRevOpsのプロセスを外部の人の手によってテクノロジーを活用しながら実装するという取り組みでした。
では、視野を少し未来にまで広げてみた時に、この骨の折れる取り組みを加速度的な進化を遂げるAIによって自動化することは可能なのでしょうか?
以下では、バリューチェーン全体における現在のテクノロジーの立ち位置を俯瞰(ふかん)しながら、RevOps実装の具体的なプロセスと照らし合わせてAIによる代替可能性について解説します。
まずは現在の業務におけるAIの活用状況から考えてみましょう。下記の図はバリューチェーン全体の各種の動きを簡単に図示したものです。この図を基にテクノロジーの立ち位置を俯瞰してみると、戦略やプロセス設計などだけでなく検証・実行部分の各プロセスのアクションの多くは人によって行われている段階にあります。
しかし、例えばウェビナーの企画や運営は人が行い、招待メールやクリエイティブの作成はテクノロジーで自動化するというように、AIやSaaSの発展により各プロセスを構成するタスクの自動化はすでに進んでいると言えます。
次に、近い将来AIによる代替の動きとして考えられるのは、各プロセスが自動化され、人はプロセス全体の設計を考慮し、統合・運用を行うという世界です。
例えば、コンテンツ制作やインサイドセールスといった各プロセスはAIによって丸ごと自動化され、人は顧客のリアクションを基に部分最適化された各プロセスを統合管理し、全体最適化を図る役割を果たすことになるでしょう。
実際に、米国ではすでにConversational Intelligence(会話分析AI。人間の会話などの音声データからインサイトの抽出やコーチングを行うテクノロジー)といった営業活動のプロセスの一部を自動化するテクノロジーが定着しつつあります。そしてRevOpsは、各プロセスを自動化するツールやシステムが顧客体験や収益向上に寄与するのか評価し、テクノロジーの導入を監督する役割を果たします。
また、RevOpsにはリアルタイムの集計データが必要になります。そこで、Revenue Intelligence(膨大な営業データから次のベストアクションの示唆出しや収益予測を行うテクノロジー) を活用すればチームのパイプラインや使用しているシステムから収益データやインサイトを抽出し、顧客体験に関与する全てのチームに情報を提供できます。
このようにAIに積極的に業務を任せることで、人は特定のフォーカスポイントや例外対応に集中できます。テクノロジーを活用しながらたった1人でバリューチェーン全体を管理できるようになる可能性は十分あると思います。そしてこの世界観こそがわれわれのRevOpsが目指す姿です。
技術革新に伴いAIにより実施できる業務が拡大しているとはいえ、戦略を立てないままテクノロジーを導入するのは本末転倒となりかねません。次は最新テクノロジーを活用しながらRevOpsを適切に導入・運用する方法についてフレームワークを用いて考えてみましょう。
米Gartnerの調査では、世界で最も高い成長率を誇る企業の75%が2025年までにRevOpsを導入すると予測されています。そんな収益向上を加速させる組織的な方法論でさえAIによって代替される可能性はあるのでしょうか?
前提として、組織でRevOpsを導入し各プロセスを自動化するには、お伝えしてきた通り気が遠くなるようなプロセスがあります。相当な覚悟が必要になるかもしれませんが、RevOpsの導入に対して戦略的なアプローチを取ることで、競合他社が難航している収益拡大や顧客体験の向上に向けた強固な基盤を手に入れることができます。
そのプロセスは、組織の規模、業界、目的によって異なるかもしれません。しかし、全ての企業がRevOpsの導入を行う際に従うべき基本的なステップがいくつかあります。ここでは、米国でSEPを提供しているOutreach社のフレームワークをご紹介します。
・(1)評価
まず、組織全体の弱点や部門間で断絶している領域を特定する必要があります。マーケティングや営業といった販売部門(フロントオフィス)だけでなく、経理や法務といったバックオフィスも含め、バリューチェーン全体のオペレーションの現状を把握します。
・(2)調整
次に、アナリティクスと収益パイプラインを基に、自社の経営状況の健全性を完全に把握できるようデータ基盤を構築します。この際必要に応じて、RevOpsを実装する上で適したクロスファンクショナルなチームを形成します(例えば、オペレーション、ツール、アナリストをそれぞれ一人ずつRevOpsマネージャーのチームに配置するなど)。
このチームは、導入するツールが現場の業務でうまく機能するかを徹底的に調査します。機能しない場合は、より適切なテクノロジーのリサーチや投資を行う必要があります。
・(3)フォローアップと最適化
RevOpsチームの導入は単発的なものではなく、継続的に改善すべきプロセスです。定期的なミーティングを通して、改善された点や新しい課題、戦略と現場のチューニングや代替テクノロジーの検討など論点を常にアップデートし続ける必要があります。そして、新しい気づきを基にアクションを起こし、RevOpsチームの最適化と、提供価値の最大化に取り組み続けましょう。
そもそもRevOpsの主な役割とは、組織横断的にオペレーションを統合し、連続的な顧客体験を提供することです。一方で、RevOpsを実装していく際の課題として想定されるのが、システムやツールの個別最適化によるオペレーションの分断です。
第2回でもお話したように、近年企業が扱うツールは部門ごとに個別最適化され、主に大きな組織では複数のシステムが乱立しているケースが多く見受けられます。それに伴い、形式が異なりかつ莫大な量のデータを管理・分析しなければならないという課題に直面しています。
そこで増加し続けるデータや複雑化するシステムの課題を解決するために近年注目されているのが「AI Ops(Artificial intelligence for IT Operationss)」という概念です。AI Opsとは簡潔に言えば、人工知能(AI)や機械学習(ML)にビッグデータを学習させることで、業務の自動化や効率化を促進させる手法で、人のITシステム運用管理をサポートする役割を持っています。
AI Opsのように、システムやツールの管理・運営をAIによって統合し、オペレーション全体を高度化・合理化していくという流れは、将来的にRevOpsにも波及していくと考えられます。
では、そうしたAI活用が進んだ際に、RevOpsの実装プロセスはどのように変化していくのでしょうか? 続いて、上記の3段階のフレームワークを基に、RevOpsのAI代替可能性について考察してみたいと思います。
・(1)評価
従来のオペレーションでは、そもそもデータが部門ごとにサイロ化しているため、組織全体での現状評価や収益拡大に向けた正当な目標を設定できないことが課題になります。しかし、AI活用によって複数のソースからデータを自動的に収集・ひも付けが可能となり、断絶された部門を迅速に統合し、事業を構成する変数の流動的な動きに応じてリアルタイムで現状評価と目標設定を自動化します。そのため、従来のように四半期ごとに現状を評価し収益目標を定める必要はなくなるでしょう。
しかし、コロナショックのような前例のない状況や社会情勢の変動による影響といった状況下での意思決定や、メンバーのモチベーションといったデータ化しづらい領域での人の介在は依然として必須となるでしょう。
・(2)調整
ツールを現場の業務でうまく機能させるためのチューニング作業は、人が全体のオペレーションを俯瞰しながら同時に現場目線で行う必要があり、AIによる代替は難しいでしょう。
また、ChatGPTをはじめとする生成AIや予測AIは、最適なプロセスに組み込むことで初めて効果を発揮します。例えば営業活動の中で、行動量は担保されているはずなのに商談につながらない場合、リストに問題があると推察できるでしょう。予測AIを活用して膨大な営業データに基づいた優先順位の高いリストを作成すれば商談数の増加が期待できます。
・(3)フォローアップと最適化
本連載でも口を酸っぱくしてお伝えしてきましたが、従来のサイロ化した手法では多様な形式の莫大なデータを横並びに分析することが困難になっています。事業を構成する重要な変数が構造的に統合されていないことで、ある変数を改善・最適化すると別の変数に悪影響を及ぼす事態が発生します。
しかし、AI Opsなどの活用によって複数の異なるデータソースを統合し、人の介在なしで全体最適のとれたパフォーマンス分析が期待されます。そのため、人の役割としては、AIによって算出された分析に基づいてスケーリングの戦略策定やリソースのアサインの意思決定といった抽象的な思考が求められるものが中心となるでしょう。
上記を受けて、AIによるRevOps実装ステップの変化を整理します。ステップ1と3は、事業上の重要な各変数をAIが読み取り、自動で最適化を行うことで、AIの支援のもと人は主に意思決定に注力するようになるしょう。
一方でステップ2のオペレーションの各プロセスにテクノロジーを調整していく業務は依然として人の役割として残ると考えられます。ただし、BPaaSのようなサービスが今後発展していけば、特定のプロセスごと代替できる可能性は大いにあります。
以上のように、今後AIの発展はRevOpsですらもその活動の大半を自動化してしまう可能性は大いにあり得ると言えるでしょう。従来型の組織では、人の役割は戦略立案・マネジメントを担うマネジャーと実際に業務を遂行するメンバーとでチームの役割が「人」によって分担されています。
しかし、AIがオペレーションに組み込まれていくことで「人とAIの分業」が進み、人が関与する割合は減り、人が果たすべき役割も変化していきます。極論を言えば、AIが算出したデータに基づいてたった1人で戦略を立案し、業務自体はほとんどテクノロジーが実行するようになる可能性は高いでしょう。例えるなら、オーケストラの指揮者を務めながら、テクノロジーという楽器を使って自らも演奏するといった役割を果たすといった世界観です。
これはRevOpsの実装にも当てはめることができます。AIを搭載したオペレーション主導でRevOpsは実現され、人は意思決定や戦略策定、メンバーの心理的なマネジメントといった人にしかできない抽象的・創造的な業務に注力できるようになるでしょう。
RevOpsの目的は全体のプロセスを調整しデータ主導の意思決定を促進し、カスタマージャーニー全体を通じて収益活動を合理化することです。そして、RevOpsにおけるAIの発展は、継続的な学習を繰り返しながら最終的に上記のような組織の変革を要望することになるかもしれません。これはAIやテクノロジーに組織が乗っ取られるというSF的な話ではなく、経営的な観点から単純にそのほうが収益を上げられると判断するようになるからです。
AIの指数関数的な進化を客観的に受け止め、収益を追求できる組織へと変革できるかは、人とAIが協調することで結果を残す組織像を常に描けているかに掛かっています。
中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年にMagic Momentを立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額20億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINEやUSEN、TOPPAN等、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業AI行動システム Magic Moment Playbook は、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV向上を非連続に実現している。
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