前回は、日本企業のRevOps実行に向けた障壁とあるべき姿を解説しました。
障壁とは、日本企業のDXに向けた本質的な課題=DXに伴う分断のメカニズムを指します。その解消に向けては、理想的な顧客体験を錦の御旗に、分断(個別最適化)された業務プロセスを統合(全体最適化)へ導いていく必要性がある一方、日本企業の人材・体制はRevOps実行への着手自体が困難な状況にある点にも言及しました。
<前回の記事:デジタル化の先に進めない日本企業 「RevOps」を阻む3つの壁とは?>
第3回となる今回は、LINE(現LINEヤフー)社が実際にRevOpsを導入した事例と、NTTデータ、NTTデータ・スマートソーシング、Magic Momentが3社合同でチャレンジしたPoCの成果についてご紹介します。
日本企業のRevOpsの実行に向けたブレイクスルーとなる新たなアプローチとは……?
NTTデータにて収益・顧客体験価値の最大化および組織的な営業力強化・生産性向上に向けた総合サービス「デジタルサクセス(R) CXイノベーションサービスfor B2B」の企画・展開をリードする宮地貴照氏と、Google Japanで営業統括部長、freeeで営業統括役員を歴任し、現在はMagic Momentの代表を務める村尾祐弥氏が解説します。
第1回で記載した通り、RevOpsそのものは米国では2010年代から取り組みが始まっており、日本の外資企業や先進的なスタートアップでは少しずつ実行されていました。しかし、3年前の2021年段階であっても、日本企業で本気でRevOpsを導入しようと考える企業はまだまだ少ない状況にありました。
このような中、国内でいち早くRevOpsに取り組み、成果を出したLINE社の事例をご紹介します。LINE社は、The Model的な分業型の組織では非連続な成長を実現できないと感じ、RevOpsの実装を試みました。結果として、既存の方法論で描いていた成長率を超え、RevOpsの実行に構築した全く新しいオペレーションでは10倍の成長を実現できる可能性を実感したといいます。
LINE社が当時抱えていた課題は、他社に先行されているSMB向け営業組織のグロースでした。
CRM・SFAといった既存のセールステックを成長のエンジンにすべく、The Model型組織の立ち上げを試みるも、社内のあちこちにデータが散在している分業型の組織では深い顧客理解を前提にした対話ができず、顧客との関係構築に強いギャップを感じていました。こうした中で、顧客との関係構築に徹底的にフォーカスするためには、部門横断のオペレーションを構築する必要があると気付き、RevOpsの取り組みを開始しました。
RevOpsによって、部門間のデータがシームレスに一元化されるようになり、顧客の行動や合意形成項目などといった顧客のエンゲージメント情報をリアルタイムに可視化できるようになりました。顧客に関わる誰もが、社内のあらゆる部門で取得された情報を把握できるようになったことで、「顧客エンゲージメント」がチームの共通言語となり、顧客を理解した確度の高い議論が可能な組織へと変革していきました。
詳しい内容は控えますが、結果として、リーチ率・商談化率・成約率の合計がRevOps導入以前と比べ約10倍へと成長するだけでなく、営業未経験メンバーの戦力化までのオンボーディング期間が2カ月間から2週間へと短縮されました。そして、構築した効率的なオペレーションを基に、社内リソースだけでなく、外部リソースにも継続的に投資を続け、飛躍的な売り上げ向上を実現しました。
LINE社の例でもありますが、一般的な組織論であれば、属人的な状況から抜け出すために組織化をしていくのが一般的です。そのため、ある意味分業は一部のトップセールスに依存した属人的な組織からの成長の証であると言えるでしょう。ただし、それは拡大する組織で成果をつくるためのリソース配置の話であって、重要なのは「データまで分業する必要性はない」という点です。
本来は顧客と関係性をつくるために、企業は一貫したクオリティーを担保することが必要であり、顧客体験は初回の接触から信頼関係の構築・成約・継続と連続性があるべきです。顧客体験の要所要所でデータが分断していると、常に変化し続ける顧客の状態を認識できず、顧客との長期的な関係構築によってもたらされるLTVの向上が難しくなります。
実際に、業務効率化など「管理・改善」を目的としてデジタル化を推進してきた日本企業の多くでは、基幹システムやCRM・SFAなどのSaaSがデータの部分最適化を引き起こし、結果的に顧客体験を悪化させ収益拡大につながらないといったケースが多く見受けられます。
分業制やThe Model自体にはなんの意味もなく、重要なのは経営の一丁目一番地である顧客との関係性に徹底的にフォーカスすることです。そのためには、RevOpsによって、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといったバリューチェーン全体で各部門のデータを統合管理し、顧客体験を全体最適化させることが重要になります。RevOpsは理想的な顧客体験の提供、つまり顧客のLTVを高める土台となります。
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