それよりも深刻なのは、出社“回帰”したわけではなく、ずっと出社“維持”を続けている職場です。日本生産性本部の調査でテレワーク実施率は最高で約3割でしたが、裏を返せば7割はコロナ禍でもウイルス感染などの危険と隣り合わせの状態で出社維持していたことになります。出社回帰とは、一度でもテレワークを実施したことがある職場のみが可能な選択です。出社維持したままの職場は、回帰したのではありません。
中には介護士や保育士など実務上テレワークが不可能なエッセンシャルワーカーの人たちもいます。しかし、テレワークができる職種や事業形態であるにもかかわらず、環境が整っていない職場は、旧態依然としたまま進化が止まっていることになります。それら出社維持の職場は出社一択しかできず、いざとなればテレワーク可能な出社回帰の職場とは、抱えているデメリットの深刻度合いが異なるのです。
テレワークは2020年のコロナ禍を機に広がりましたが、その必要性自体はパンデミックが起きる以前から指摘されていました。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省の4省がテレワーク推進フォーラムを設立したのは2005年。その設立趣意書には、以下のように記されています。
「テレワークは、就業者の仕事と生活の調和を図りつつ、業務効率の向上を実現する柔軟な就業形態であり、この普及を通じて、少子・高齢化や地球環境、災害時の危機管理等の社会問題の解決に向けた貢献ができるものと期待されている」
ここに書かれている意義は、いまも色あせていません。むしろ、コロナ禍を経験したことでよりハッキリと実感できるようになりました。いずれも、いまもまさに取り組みが必要な重要な課題です。
これらに貢献すると期待されているテレワーク推進は、コロナ禍が一段落したからと手綱を緩めてよいものではなく、むしろ加速させる必要があるように思います。
先出の日本生産性本部によるテレワーク調査によると、自宅勤務において「効率が上がった」「やや上がった」と答えた合計は78.9%でした。第1回の調査時には合計で33.8%だったので、約4年の歳月を経て2倍以上にまで上昇したことになります。
ここ2年ほどテレワーク実施率は横ばいが続いていますが、自宅勤務で効率が上がったと回答した人の比率はジワジワと上昇傾向が続いています。テレワークを継続する人たちの進化や、生産性が上がってきている様子がうかがえます。
テクノロジーが発展し、DXが進むとともにテレワークできる業務の範囲は拡大してきています。文書はいつでもどこでも作成してやりとりできますし、ビデオ会議システムを使えば別空間にいる人同士が相手の顔を見て打ち合わせできます。重度障害がある人でも、自宅からロボットを遠隔操作して接客業務を行うといった事例も出てきています。
いまは外科手術でさえ、遠隔操作できる手術支援ロボットが導入されるようになってきました。これまでテレワークが不可能と考えられてきたエッセンシャルワーカーであっても、テクノロジーのさらなる進化が新たな可能性を切り拓いていくことが期待できます。また、エッセンシャルワーカーを含め、どんな職務でもタスク分解すれば事務などテレワーク可能なタスクはあるものです。
テレワークが可能なタスクは、いま時点においても職場の中にまだまだたくさん眠っています。また、未来に向かってその範囲は広がっていきます。一度もテレワークを試みることなく頑なに出社維持を続けている職場は、テレワークの可能性を確認することも経験を積み上げることもできず、気付いた時には取り返しのつかない状況に陥りかねません。
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