一方、出社回帰にはデメリットもあります。大きく3点挙げます。1つは、在宅勤務していた人に通勤時間というロスタイムを再び発生させることです。以前書いた「年間の通勤時間は休日20日分に相当 テレワークが生んだ3つの課題」でも指摘しましたが、仮に毎日の通勤時間が往復2時間だとすると、ひと月に20日働くとして40時間のロスが生まれます。
在宅勤務だと、この40時間は自由に使える時間です。12カ月分を足して年換算すれば20日分の休みに相当します。在宅勤務者にとって出社回帰要請は、年20日分の休日を放棄するよう迫るのと同じ意味を持つことになるのです。
また、副業が推奨されつつある中、自由に使える月40時間を別の仕事に充てれば収入を得ることもできます。2024年度の最低賃金は全国平均で1055円。仮にこの金額を当てはめると、月に40時間×1055円=4万2200円の収入を得られる計算になります。年額換算すると50万6400円。これらの権利が失われてしまうことになれば、モチベーションがダウンしたり、退職理由になったりしても不思議ではないほど重いと感じます。
次に、企業にとって、採用時に不利が生じます。テレワークか出社かを自由に選べる環境と原則出社の職場環境では、より柔軟性が高い前者が働き手から人気です。出社回帰に向かうと、相対的に働き手から選ばれづらくなります。人気企業であれば大した影響はないかもしれませんが、人手不足が慢性化しているだけに、出社回帰してあえてハンデを背負うことは事業運営上マイナスにはなっても、プラスになることは考えにくいでしょう。
3つ目は、ワークライフバランスがとりづらくなることです。結婚や出産などで女性は仕事と家庭の両立に悩むことが増えますが、性別役割分業に対する意識変化が進みつつある中、同じ悩みを男性も持つようになってきています。
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得率は急激に上昇して3割を超えました。また、内閣府の「男女共同参画白書」によると、妻が64歳以下の共働き世帯の数は年々上昇を続け、令和5年には専業主婦世帯のほぼ3倍になっています。
共働きの増加に伴い、性別を問わず誰もが家事などの家仕事に取り組む“1億総しゅふ化”が進むと、仕事と家庭の両立はあらゆる働き手の課題として認識されるようになります。その傾向が進めば進むほど、ワークライフバランスがとりづらい出社回帰は働き手にとってデメリットです。
しかしながら、出社回帰がもたらすこれらのデメリットは、それほど深刻なものではありません。なぜなら、いざとなればテレワーク回帰も選択できるからです。例えば台風などで出社が困難な時は、在宅勤務に切り替えることができます。再びコロナ禍のようなパンデミックが起きても、生産性が下がるケースはあるかもしれませんが、事業を存続させることはできます。
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