「AI PC」とは、AIの推論に特化したNPU(ニューラルプロセッシング・ユニット)を組み込んだCPUを搭載したPCである。データセンターにデータを送ることなくローカルでAIモデルを使った解析ができるので、セキュリティやプライバシー保護の観点から安心でき、AIの新しいトレンドを示すキーワードの一つとして注目を集めている。
マイクロソフトは5月、同社の生成AIサービスであるCopilot(コパイロット)を利用できるAI PCを表すコンセプトモデルとして、「Copilot+PC」を発表した。発表当初はクアルコム「Snapdragon Xシリーズ」を搭載したPCしか選択肢がなかったが、9月3日、インテルが新たなNPU搭載CPU「Core Ultraシリーズ2」を正式に発表した。インテルにとっては主力事業の売り上げ拡大の切り札にしたいところだろう。
現在のところ、AI PCを使って“これは!”と思わせるアプリケーションは少ない。現在ローンチされているアプリは、PC内の書類の検索を高度に行えるチャットボット、PC搭載のカメラを使って被写体の自動追尾やフォーカス、ペイントツールで画像の加工・修正ができるものなどが確認できる。もちろん使ってみると便利だが、「AI PCでなければできない」ということはない。加えて、AI PCにはPCの中で推論を行うためのAIモデル(SLM:小規模言語モデル)が必要だが、誰がどのように準備するのかは現時点では定かではない。
PCはコモディティ化しているとはいえ、消費者にとってはいまだ高い買い物である。さらに、買い替えサイクルも売れ行きに影響する。エヌビディアのGPUの需要がたった1年で一気に加速したのとは対照的に、AI PC用のAI半導体の普及はゆっくりとしたものになるかもしれない。
今後は、PCやスマートフォンだけでなく、屋外に設置したカメラなどのセンサーや車の車載端末内部でAIモデルを使った推論を行う「エッジAI」の時代が到来するとみられている。
車の自動運転支援機能はエッジAIの代表的な機能だ。今後は危機回避など安全対策のさらなる強化だけでなく、ユーザーの趣味嗜好にあったエンターテインメントサービスを、プライバシーに配慮しながら提供する場合にも、エッジAIが役に立つ。
最近では、エッジ向けのAI半導体開発にクアルコムやルネサスエレクトロニクス、スタートアップのテンストレントが参入するなど、にぎやかさを増している。今後、エヌビディアに続く勝者が現れるのか、AI PCを起点としてインテル復活劇が始まるのか、あるいは第三者が新たな市場を獲得していくのか。ますます目が離せない。
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