デジタルマーケティングの世界では、大きな変化のうねりの中で日々、新たなアイデアやトレンドが生みだされ続けている。そんな中でも、特に生活者との重要なコミュニケーションの場になっているのがSNSだ。生活者の心を動かし、ブランドグロースや事業成長に寄与する施策はどんなものだろうか。また、SNSで話題になっては消えていくトピックスの中で、本当にキャッチアップするべきものをどう選別し、そしてどんな視点で解釈するべきか。日々さまざまなマーケティング施策やコンテンツに触れている、電通デジタルのメンバーがSNSマーケの最旬トピックスを解説していく。
「チーム友達」という言葉をご存じでしょうか。KOHHの名前で知られる千葉雄喜さんが2024年2月13日にリリースした楽曲名です。
もともとJin Doggさんが自身のリリックで使用していた「チーム友達」という言葉を、千葉雄喜さんが楽曲のタイトルに採用しました。KOHHとして約3年間の活動休止を経て、千葉雄喜名義でリリースしたこの楽曲は、リリース前から彼の身近なDJがクラブシーンなどでリミックスし、仲間内から徐々に広がっていきました。
一部の界隈で盛り上がりを見せていた「チーム友達」ですが、MV公開とストリーミング配信と同時に一気に広がり、多くの著名人やインフルエンサー、一般人にまで波及しました。
星野源さんはラジオ番組で曲を流し、渡辺直美さんは歌っている動画をInstagramに投稿、その他にもさまざまなインフルエンサーがチーム友達の音源を付けた動画をSNSに投稿しました。その結果、同楽曲のTikTokの再生回数は2億5000万回に上るとのことです(参照:Nスタ「『日記です』再生回数2億超!チーム友達」2024年4月29日放送より)。
「チーム友達」の人気ぶりは各種ランキングにも表れています。SpotifyがSNSで話題の曲をランキング形式で発表するプレイリスト内では3月に1位を獲得。Z世代が選ぶ、2024年上半期の流行った言葉では「BeReal.」に次いで3位にランクインするなどしており、日常の中で「チーム友達」が浸透している様子が見て取れます。
なぜここまで「チーム友達」という言葉は広がったのか。この流れを把握することは、ソーシャルメディアクリエイティブ(ソーシャルメディアやSNSにおける投稿や画像・動画)の効果を最大化するヒントになり得ます。この熱狂の成功要因を、クリエイティブプランナーの著者が分析していきます。
まず、要因を分析する上で考える必要があるのは「誰が言っているのか」という点です。今回の場合は、以下などが考慮すべきことに当たります。
発信時に対象を取り巻く環境を踏まえることはSNSに限った話ではなく、ブランドやプロダクトのRTB(=Reason to Believe)を立脚点として企画を広げていく広告クリエイティブの基本です。
その上で「ターゲットが言いたいことを言わせてあげる」という考え方が、仲間内から一般人にまで「チーム友達」という言葉が急速に広がっていった要因と考えられます。要は「俺たち最高」と言えるきっかけづくりが重要だったわけです。
千葉雄喜さん自身は仲間をターゲットだとは考えていないと思いますが、最初に届けた身近な人たちが、日頃から思っているが口にしない「マジで俺たち最高だよな」という本音・インサイトを捉え、公然と口に出せるきっかけをつくったことが、広がりを作ったように見えます。
この考え方は、XやInstagramなどで拡散力を持つコンテンツに共通します。投稿に最初に触れたフォロワーの反応を基に拡散性を決めるアルゴリズムを、これらのSNSが組んでいるからです。
しかし、これだけで2億5000万回もの再生回数を稼ぐことは難しいでしょう。2つ目の要因は、「チーム友達」が「分かりやすい表現」「記憶に残る粘着性」「使ってしまう流通性」の3つの要素を兼ね備えた言葉であることです。
「俺たち最高」も「いつメン」も「仲良しグループ」も、同じニュアンスを言い換えた言葉です。しかし、そういったありきたりな言葉ではなく、すぐに伝わる分かりやすさがあり、覚えやすく、かつ遊び方の幅がある「チーム友達」というコピーを、千葉雄喜さんを取り巻く環境の中にアウトプットしたことが、ここまでの広がりを生み出した要因だと考えています。
SNSは、同じ興味関心でつながるプラットフォームであるがゆえに、フォロワーのインサイトを捉えたり、トレンドのインサイトを捉えたりするだけでは、仲間ゴトで終わってしまいます。その壁を超えた広がりを目指すには、言葉や画像、動画でユーザーが遊べる余白を意識的に作ることが必要です。
ここまでを踏まえて「チーム友達」の成功要因をまとめると、以下にようになります。
本記事を執筆するにあたり、「チーム友達」以外の話題になっていたソーシャルメディアクリエイティブも分析してみました。その中であらためて感じたことは、生活者は、そのブランドが発信する正当性、つまりRTBがあるのかどうか、を当たり前のようにチェックしているということです。これはソーシャルメディアクリエイティブを考える際に念頭に置くべき点です。
ユーザー発信のコンテンツは、非常にウィットに富んだものも多くありますが、一方で過激なコンテンツや悪質なパロディなども含まれているのが現実です。そのようなSNSの中で、企業アカウントがどう目立つかを考えると、世の中のトレンドに乗っかる選択をすることは致し方ないと思います。
しかし、ここで「世の中のトレンドに乗っかっただけ」とユーザーに思われてしまったらおしまいです。「乗っかっただけ」の投稿のコメント欄に残されたコメントは、たいていが良いとは言えないものでした。
トレンドとブランドの接着を熟考した上で、今回お話ししてきた「フォロワーインサイトを捉える」→「ユーザーが遊べる余白をつくる」の2段階構成でソーシャルメディアクリエイティブを設計していくことがとても大切です。
本稿では詳しい説明は割愛しますが、起点となるフォロワーインサイトを把握するためには、担当するSNSアカウントのフォロワーの反応や属性を定性的な面で把握しておくことをおすすめします。定量的な側面からのアプローチとしては、ビッグソーシャルデータの利活用が可能となるソーシャルリスニングツールも効果的だと思います。
一言でソーシャルメディアクリエイティブと言っても、そのアウトプットの背景には考慮すべきさまざまな要素が存在します。どの観点を重視して企画を磨くべきか、世の中に出していくか、について少しでもお伝えできれば幸いです。
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