こうした中、日本ワインの製造元として長い歴史を持つサントリーでは近年、どんな取り組みをしているのか。サントリーワイン本部の担当者は「『ものづくり』と『ワイナリー』の両面から、品質向上に向けた取り組みを行っている」と話す。
近年の代表的な取り組みといえば、2022年9月の「FROM FARM」をコンセプトにした新ブランドを立ち上げたことだ。具体的には、フラッグシップの「シンボルシリーズ」、社内ワイナリーの魅力を強調した「ワイナリーシリーズ」、ワイン産地ごとの個性を伝える「テロワールシリーズ」、そして日本に固有の品種を手軽に味わえる「品種シリーズ」の4つを展開し始めた。
フラッグシップとなるワインを中心に、日本に固有の品種「甲州」の自社栽培に取り組んでいるのも特徴だ。2009年から「登美の丘 甲州」を販売するなど、以前から甲州を自社で栽培していたが、2014年ごろからより品質の高い甲州を生み出す取り組みへ本格的に着手。ワインとして結果が出るまでは10〜15年と長い期間を要するという非常に長期的な取り組みだ。
そうした手間をかけてでも、甲州の品質向上に取り組み始めた理由について、サントリーワイン本部シニアスペシャリストの柳原亮氏は次のように話す。
「甲州は糖度が上がりにくいことから、これまでワインの原料としてはマイナーでしたし、登美の丘ワイナリーでも欧州系の品種をメインに手掛けてきました。しかし、近年は温暖化が進行し、高温でも糖度が上がりすぎない品種に注目が集まっています。山梨をベースにワイン作りに取り組んでいる企業としても、取り組む意義があると考えて取り組みを始めました」
糖度が上がりにくいことから、甲州の栽培ではいかにワインに適した系統を植えるか、そして完熟したぶどうだけを選別して収穫するかがポイントになるという。そうした点を念頭に置いて活動を開始した結果、2019年からの4年で、フラッグシップとなるワイン向けの甲州は糖度が大きく上昇している。前述したデキャンタ・ワールド・ワイン・アワードでも、「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」が2024年に最高位の賞を受賞するなど、国際的な評価も高まっている状況だ。
サントリーではこれら以外に、環境変化への対応などにも積極的に取り組んでいる。後編では、そうした環境変動とともに品質向上にも対応する“二兎”を得る取り組みなどについて解説していく(後編は10月2日に公開予定です)。
フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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