世界的な「中国離れ」の動きとは裏腹に、足元の中国株価指数は暴騰している。
過去1カ月における中国の主要株価指数の動きは非常に顕著で、特に9月後半からの上昇が目立っている。上海総合指数は2736ポイントからわずか1カ月で3304ポイントまで約21%上昇した。CSI 300指数も同期間中に3192ポイントから4026ポイントまで約26%上昇した。グローバル企業が生産地などの拠点を中国から他国へ移す「中国離れ」が話題になっているものの、2024年内で最高値をいずれも更新している。
この急騰は主に9月24日に発表された金融政策によるものと見られている。中国人民銀行が預金準備率の引き下げや住宅ローン利率の削減など3つの金融緩和政策を打ち出したことで、市場に流動性が戻り、投資家の買い戻しが発生したことが大幅な株価上昇の要因だ。
ゼロコロナ政策によって経済が停滞した2020年から2022年、経営基盤が揺らいだ不動産大手の恒大集団や、当時国内最大の不動産デベロッパーであった碧桂園の経営危機の余波を受けて景気は上向かなかった。そこに中国離れの動きが加速したことや、ゼロコロナ終了後も訪中外国人が増えなかったことで、中国経済の先行きに対する悲観はピークを迎えた。2024年9月中旬までは上海総合指数も過去5年来の安値を更新していたのだ。
そこからの株価暴騰について、市場では金融緩和に加えて政府がさらに成長を優先する姿勢を明確にし、信頼回復につながったという見方もある。しかし、この上昇が長期的な成長の兆しであるかどうかは依然として不透明だ。
市場の急騰が流動性に依存しているため、一時的な高揚感によるものとの見方もある。現に、中国の主要株価指数は1日で5%以上の急落を伴う場面も散見され、乱高下の様相を呈している。目下の市場の急騰は主に政策主導であり、実体経済の改善がそれに追いつくかどうかが鍵となるだろう。
特に、不動産市場の停滞や消費者信頼感の低迷といった構造的な問題が解決されてしまえば、「中国離れ」という経営判断は誤りとなるリスクがある。
企業経営の場面において「中国離れ」から「中国回帰」の動きになるシナリオはあり得るのだろうか。
近年、グローバル企業の間で「中国離れ」が進行していることが報じられている。身近な例ではパナソニックが、これまで9割の生産シェアを占めていた空調の生産を2023年に日本へ回帰させることを発表し、2024年には海外生産品の多くを国内で生産する方針に切り替えた。
海外企業においても、中国離れを選ぶ企業が増えている。米AppleではiPhoneの生産について、中国への依存を減らし、一部インドで行う計画を発表したばかりだ。インテルなどの半導体企業も中国から他国、ないしは米国内での製造を強化している。
このように、「中国離れ」の動きは国内外の企業を問わず、地政学的リスクやサプライチェーンの多様化を理由に加速している。
しかし、中国市場がいまだに巨大な内需を抱えていることを見逃すこともできない。グローバルの大手企業が撤退すれば、「抜け駆け」により大きな利益が得られる可能性もちらつく。ではどのように現状の中国市場を考えるべきだろうか。
高騰を続ける株価市場の動向とは裏腹に、中国の株価急騰について多くの経済専門家は警鐘を鳴らしている。この状況は2008年の「世界金融危機」や2015年の「チャイナショック」と重なる。
上海総合指数は2008年と2015年に大きな株価の急騰、いわばバブルを経験しているが、足元の株価はいずれの高値も越えられていない。経済の実態以上に株価がついているときに株を買ったり設備投資などに力を入れたりしてしまうと、大きな損失を被ることが懸念される。
この点について、JPモルガン・プライベートバンクが発表した2024〜2025年における中国市場の展望レポートによれば、市場のコンセンサスが中国国内におけるEPS(1株当たり利益)成長率を24年に13%、25年に16%と見込んでいるのに対し、同社は両年とも10%〜11%のレンジにとどまると悲観的な予測を公表している。
2024年、2025年ともに予想より低い成長率が続くこととなれば、現状の中国における株価指数の楽観的な期待と実態に30〜50%ほどのギャップがある可能性があり、その分だけ高値掴みのリスクが隠れているといえそうだ。
「中国回帰」の判断を分けるのは今年の実績をトラックしてからでも遅くないだろう。それと同時に、来年の見通しが過剰に織り込まれているのか否かも確認したほうがよさそうだ。特に企業の戦略策定に当たっては、この株価上昇が直ちに中国経済の復活を示唆するとまでは言いきれないだろう。現状、安易な回帰は推奨されないといえよう。
「景気は気から」という言葉があるが、株価だけが順調に見える状況は一時的な安心感を演出するにとどまる。そのような環境下では、リスク管理を徹底し、むしろ短期的な波乱や調整に備えた守りを重視する戦略が求められるだろう。
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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