「人の三井」と評される三井物産は、「すべては人からはじまる」という言葉を原点とした人材戦略を展開している。自己定義をベンチャー企業と置き、英文社名であるMitsui & Co. の「& Co.」に「仲間たち」という意味を込めている。多様な仲間が「挑戦と創造」の精神のもと、自由闊達な組織風土で働くことで、一人一人が成長し適材適所で活躍する、日本を代表する企業である。
同社の人的資本レポートは、まず「『未来をつくる』人をつくる」というタイトルが付されている点が目を引く。コンテンツで特徴的なのは、「個人」にフィーチャーしながら人的資本経営の一つひとつの指標を開示していることだ。「人」にこだわり、「強い個」の育成に力を入れ、多様性を「インクルージョン」している同社の姿勢を表しているといえるだろう。
例えば「キャリアチャレンジ制度」の紹介では、制度の概要や参加者の平均年齢を示すだけでなく、実際の参加者の声を紹介している。定量指標を開示するだけでなく、定性情報によって実態を示している点は参考となるポイントだ。
だからと言って、「個人」に寄りすぎているわけではなく、全社の戦略や経営課題と各施策をひも付けて整理している。どのような人的資本投資をおこなうことで(インプット)、どのような目標指標に影響し(アウトプット)、どのような経営課題を解決できるのか(アウトカム)というところまで体系立てて整理しているのは模範的だ。
加えて、同社はISO30414で規定されている各指標も開示している。まさに「比較可能性」と「独自性」の両方を追求した開示事例だといえるだろう。
今回紹介した4社は人的資本開示のロールモデルともいえる事例である。こうした事例を参考にしながら、自社の場合、企業価値向上のためにどのような人事データを収集・活用していくべきかを議論することが重要だ。自社の課題や価値観を踏まえ、ぜひ独自性のある人的資本経営を推進していただきたい。
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人的資本開示の「ポエム化」は危険 投資家に本当に“響く”情報とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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