このような話を聞くと、「そんなのは後からいくらでもこじつけられる。末端の社員には会社の異変など分かるわけがないだろ」と冷笑する人もいるが、現実はちょっと違う。
『船井電機破産、嵐の一日 解雇された社員「不穏な伏線は夏ごろに」』(朝日新聞 10月26日)で取り上げられている社員のように、少し前から「うちの会社、そろそろヤバいかも」と感じていたカンのいい人はそれなりにいた。気付いていたけれど、多くの人はその不審な動きを、自社の危機に結び付けられなかったのである。
なぜかというと、この不審な動きというものが、多くの社員が関わっている「本業」と関係がないからだ。
既に多くの専門家が指摘しているが、今回の船井電機の破産は「本業」だけが原因ではない。
報道では、負債総額は2024年3月末時点で約460億円だが、主力の映像機器事業だけでこの負債が生まれたとは考えにくい。
液晶テレビの製造は確かにかつてに比べれば不振に苦しんでいたが、それでも2024年3月期の連結売上高は約851億円(前期比4.1%増)。国内とアジアは低調だったが、北米市場の売り上げが伸びていて、当初の計画よりも上回っていた。
船井電機・ホールディングスの事業報告書(2022年4月1日から2023年3月31日)の中で自社の財務についてこう述べている。
「金融機関との関係は引き続き良好であり、当社グループの当連結会計年度末現在の現金および預金残高は221億96百万円となっております。当連結会計年度において23億63百万円の親会社株主に帰属する当期純利益を計上しており、当連結会計年度末現在の純資産も255億79百万円あり、財務健全性に問題はないものと考えております」
つまり、このタイミングでは財務的に何も問題がなかったが、2023年4月1日以降から「何か」が起きて、船井電機は460億円の負債を抱えたということである。これは例年通りに推移する「液晶テレビ事業」などが原因とは考えにくい。
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