多くの企業で、SaaSがあふれています。導入はしたものの、十分に使いこなせず必要な場面で活用されないまま放置されているSaaSがあるのも珍しい話ではありません。IT部門でさえ、これらの実態の把握が困難な状況も見受けられます。
「DXで生産性向上!」との意図でせっかく導入したSaaSを、1つの業務につき複数のサービスにまたがって使うなどしているうちに「私がやりたいこの業務は、どのシステムでやるんだっけ?」「操作方法が複雑で覚えられない...」と、システム迷子になる社員も出てきてしまうでしょう。
そんな混乱した状況を解決に導くのが、「DAP」です。DAPとはどのようなもので、具体的にどんな課題を抱える企業で活用できるのでしょうか。詳しく解説していきます。
DAP(Digital Adoption Platform)という言葉を聞いたことがありますか?
DAPは、ユーザーがデジタルツールを使いこなせるよう支援するプラットフォームとして、海外ではすでに多くの企業が導入しています。しかし、国内では「まだ知らない」あるいは「聞いたことあるかも」という方が大多数でしょう。また、DAPを知っているという方でも「ああ、あのマニュアルの代わりになるやつだよね」という理解にとどまっているかもしれません。
ところが最新の予測によると、今後DAPはさらに高度な役割を担うと期待されています。米Gartnerは「2027年までに、30%の組織が自社のDAPから提供されるコパイロットを活用し、他のコパイロットと連携してビジネスプロセスの自動化を進めるようになる」と予測。また「2026年までに、組織の40%が自社のDAPに組み込まれた生成AIを利用して、従業員に新しいワークフローを自動的に提示するようになる」としています。
DAPは社内で利用するSaaSなどのサービスや、また社外の顧客向けアプリケーションサービスに対して、ガイドや操作の自動化、データ入力の適正化などの機能を持ちます。また、その操作状況を分析し、課題の明確化が可能になります。これらをノーコードまたはローコードで実施できることも、その特徴の一つです。
このように、DAPは単なるサポートツールから、業務効率化と自動化を推進する戦略的な存在へと進化しているのです。今後のDX推進の要として、またビジネスプロセスの改善を支える役割としてますます期待されています。
本稿では、まずDAPの原点や基本的な役割について説明し、その後にDAPが具体的に解決する課題や、業務にもたらすメリットについて掘り下げていきます。
現在はDAS(Digital Adoption Solution)と呼ばれる、DAPの前身は2011年に生まれました。その際、ITシステムなどを活用する企業内の利用者と管理者のそれぞれが抱える、下記のような課題にアプローチすることが目的とされました。
それに対してDASは、下図のように、吹き出しなどを対象システムの画面の上にオーバーレイ表示し、利用者が操作に迷わないようサポートしました。
DASがもたらした効果は、単純に課題の裏返しとなりますが、以下の通りです。
このようにDASは、主に利用者の操作の課題と、システム管理者の管理工数の課題を解決するものとして位置付けられます。
「DAPを知っている」という方も、上記の認識ではないでしょうか。しかし、実はこれはDASに関する内容であり、DAPとは異なるものです。当然DASでできることは、DAPにも含まれますが、それはあくまで初歩的な一面に過ぎません。DAPはさらに進化したプラットフォームで、より幅広い課題に対応しています。
ソリューションのカテゴリーにDAPという名前がついたのは2017年頃です。これは、DAPの原点であるDAS(S=Solution)との差異を明確にするため、名前の中には(P=Platform)を入れて「DAP」と命名されました。では、DAPはどのような課題にアプローチしているのでしょうか。
結論から言うと、DAPがアプローチする課題は、人や組織が変革に対して抱く「戸惑い」や「反発」などの阻害要素です。このためDAPはチェンジマネジメントを実現します。
VUCAの時代において、他社よりも高い競争力を得るために、営業や人事、経理などのあらゆる部門で、変革プロジェクトが頻繁に行われるようになりました。
現代の企業変革に、システムは必要不可欠です。システムを利用した変革を支える存在として、DX推進部門やIT部門があります。
しかし、多くの調査から、大半のDXはうまくいかないことが分かっています。調査によりますが、7〜9割が失敗するとされます(詳しくは連載第1回で説明)。米ボストン・コンサルティング・グループの調査では2020年および2022年のいずれも、DXの約70%が失敗したと報告されています。
DAPはあらゆる部門の変革や、それを支えるDX推進部門、IT部門の変革を可能にする、変革促進プラットフォームであると位置付けられます。
企業が社内で変革を進めていく際、それぞれのステークホルダーはどのような課題に直面するのでしょうか。
それぞれの視点から、どのような課題があるか見ていきます。
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