――藝大といえど、少子化の問題とは無縁ではないと思います。今の藝大の課題について、箭内教授はどのように認識していますか。
僕が藝大に入学した40年前のデザイン科の倍率は50倍でした。それが今では約15倍。ここには、少子化という問題だけでなく、芸術を一生の仕事にしようと思ったわが子に対し、背中を押すことに躊躇(ちゅうちょ)する家庭が増えてきている背景もあると考えています。入学者を見ると、親も藝大卒という家庭の割合も増えています。
つまりそれだけ、芸術に理解のある家庭であるかどうかが大事になってきています。少子化の時代だからこそ、親は子育てに失敗したくない。親の反対によって美大や藝大に行けないケースが増えている。ここも一つ大きな課題であることは確かです。
藝大のWebサイトで「藝大生の親に生まれて」という連載を続けています。これは、藝大生の親御さんにインタビューをして、どんなことが大変で、こんなことが楽しい、こういう体験をすることもある、といった内容を伺っていくものです。この連載のターゲットは中高生の保護者です。そういう情報発信をしていくことで、「これなら私もわが子を応援できるかもしれない」と気付いていただけるきっかけになってほしいのです。
――卒業後の行方不明者を減らす取り組みも、一つの課題として挙げていました。
年に2回、さだまさしさんと一緒にフジテレビで「藝大よ、地球を救え。」というタイトルで、さまざまな企業や自治体が抱える悩みに対し、藝大生がクリエイティブの力で解決に挑む番組を放送しています。課題に対し、藝大生たちがアイデアをプレゼンテーションをしてマッチング、解決するデザインを形にします。名古屋のみそかつ店「矢場とん」の社歌を、藝大生が作曲する企画が実現したりもしました。閉塞する現状をブレークスルーするために「アート思考」という考え方を、多くの企業が持ち始めています。社会も藝大生を、アートの力を経営に求めているのです。
もちろん藝大も変わっていかなければなりません。半分は閉じながら、もう半分は外に向かってより開いてゆくべきです。さまざまな場面で藝大の現在と未来を発信することで、芸術が社会課題を解決できる仕事なのだということを、さらに実践していきたいと考えています。
――まさに藝大でも産学連携を進めているわけですね。
そうですね。現在の世の中は、何百年かに一度の、アートを必要としている時代だと思います。芸術は「人が生きる力」「いまここにないものをイメージする力」だと考えています。今だからこそ、芸術を志して藝大を目指す人を増やし、この世界に笑顔と感動を増やしていきたいですね。
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